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残月に食べてもらおうと腕によりを掛けて焼いたスコーン籠を手に、サニーは彼の執務室を訪ねた。いつもならすぐにノックするのだが・・・まず先にドアの前で胸元のリボンの形を整え、前髪をいじってみる。先日の件(「sweet season」参照)以来、サニーは残月の執務室に入る時は必ずこうしている。

「残月様、サニーです。入ってもよろしいですか?」

軽やかなノックをしてみたが返事は無い。不在なのだろうかともう一度ノックしてみるも同じ。しかし不在なら必ずカギがかかっているはずなのだが、ドアはそのままノックに押されてゆっくりと開いた。そろりと執務室の中に顔を入れてみたが残月の姿は無い。

「残月様?」

------どこへ行かれたのかしら。

一歩、二歩と足を踏み入れ、サニーは誰もいない執務室を見回す。隣接されている小部屋も覗いたがやはり人の気配は無い。

室内の唯一書棚に侵食されていない窓側にはマホガニーのデスクがあり、その上に残月が愛用する朱塗りの煙管が。

吸い口と火皿はよく磨き上げられ鈍く輝いているが、それ以上に窓から入り込む陽光を浴びて管部分である羅宇(らう)に塗られた朱色が鮮やかに映えていた。

「・・・・・・・・・」

サニーは誰もいないと分かっていながら周囲を見回した。スコーンが入った籠をデスクの上に置いて普段は残月だけが座るラムレザーのチェアに腰を下ろす。

煙管を緊張しながら手に取り、窓からの陽光の中で眺めた。火皿から羅宇に接合する雁首(がんくび)と呼ばれる部分には良く見れば細やかな彫金が施され、吸い口部分にも同様の優美な草花の紋様。少女の目から見ても洒落た造りだと感じる。しかしそれは想像していたよりも重さがあり、サニーの手にしっくりなじんだ。

床に足が届かないままお尻をずらして深く沈みこませ、大きな背もたれに身体を預けて胸をそらせ

「私は『白昼の残月』」

口調をまねて気取った風を装い、煙管をそれっぽく構えてみた。

「おやサニー、今日は何の御用かな?」

などと気分はすっかり残月。
サニーはさらに煙管を吸う素振りをとり、煙を吐いているつもりなのか口を尖らせる。

「うふふふっ」

本人はかなり楽しいらしい。

チェアを体重で揺らしながら改めて煙管を見詰めてみる。父親が吸っているためか煙草を吸うことが大人の特権だと感じ、憧れが無いわけではない。子どもから見れば少しカッコイイと思う。それに残月がいつもこれを優雅に扱い、口を寄せて味わう姿を思い浮かべると尚のこと。今まではあたりまえの光景としてその様子を見ていたはずだったが・・・・

ふと・・・少女の胸には好奇心ではない高鳴りが。

細い腰には彼の力強い腕の感触が蘇り
そこからじんわり伝わる体温はかなりリアルだ
頭の中には残月の顔、覆面から覗くのは端整な口元
それは笑みを浮かべて・・・

意識して思い浮かべていることに自覚が無いまま、煙管の吸い口を見詰めていた

高鳴りはもう耳には入らない

いつしか小さくふっくらとした唇は求めるかの様に・・・・



そっと・・・・



「残月殿、取り込み中であれば出直すが」

「!!」

心臓が飛び出るかと思った。
サニーが慌てて煙管を口元から離し椅子ごと振り向けば、そこには残月本人。

「ほう、スコーンか」

残月はデスクの上に置いていた籠の中を物色し、ココア味のスコーンを摘み出す。「うむこれは上手に焼けている、食感も申し分ない。紅茶によく合いそうだ」などと一口齧ればいつものように冷静にスコーンの批評。

「どうした?サニー?」

煙管を手にしたまま未だ固まっているサニー。
顔からは冗談みたいに湯気が上がり、面白いほど赤い。
しかし頭の中は真っ白だ。

「え?ざ・・・ざ、残月様・・・今までどちらに」

「十常寺に用があってほんの数分、隣にある彼の執務室にいたが」

「いつからここにいらっしゃって・・・」

「サニーが私になりきっているのに邪魔するのは野暮というものであろう」

今度はナッツ入りスコーンを取り出す。

「じゃ、じゃあ・・・」

混乱し始めた頭の中には先ほどまでの自分の姿。
手にある煙管に妄想全開中だったとようやく気づく。

「こちらも美味しそうだ。よし、取って置きの茶葉があるから・・・」

それからのサニーの動きはつむじ風のようだった。
煙管をデスクの上に投げて、残月の手からスコーンを奪い取り、籠をひったくって

「ざ、残月様のために焼いたんじゃありません!!!!」

捨て台詞を残すとあっという間に執務室から逃げていった。




「それは悪い事をした」




突然のおあずけをくらい、一人残された残月はいつもの調子。














息を継ぐ間もなくサニーは本部内を走った。
途中誰かに声を掛けられたかもしれないがそんな場合ではない。
走って走って、とにかく全力疾走。
樊瑞の屋敷に戻ると一目散に二階の自室に駆け上がり、ドアにカギをかけて手にあるスコーンは籠ごと放り投げて

そのままベッドにダイビング。



「~~~~~~~~!!!!!」



毛布を頭から被ってジタバタするのが、少女ができる精一杯だった。








END





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何だこりゃ






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