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うろほろぞ
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地球上のどこかに存在するBF団本部。

ヒィッツカラルドは温度が一定に保たれた温室内にいた。
様ざまな甘い果実の匂いと色を楽しみながら温室内を歩き、抜けた先にある彼が所有するワインセラーへと向う。

バベルの塔を中心とする本部の敷地は非常に広大で、組織の様ざまな施設がありまた幹部の私邸や別邸も隣接されている。バベルの塔内部の本部施設にもいくつかに分かれた中庭があるが外の敷地にも庭園とよべる場所があり、温室施設もある。そこでは最新かつ先端技術でもって四季折々の植物、野菜、果実が栽培されバイオ実験や遺伝子操作実験などに使われることもあるが多くの団員を抱えるBF団本部の食料にもなっている。

そういった目的以外の温室も存在する。個人所有の温室。それは単なる観賞用であったり、趣味で果実を収穫後はワインやジャムなどに加工を目的とした栽培用だったり。しかしそういったことは一部のA級以上のエージェント、もしくは幹部にしか許されてはいない。

十傑集の面々も何人か温室を所有している。
やはり趣味とする者がいるからだった。

「ふーん、相変わらず丁寧に育てているな」

ヒィッツカラルドは目の前にある丸々と太った無花果(いちじく)をなで、その白い目を細める。無花果酒も悪くないか、とひとりごちながらまた歩みを進めた。
ちなみに彼も所有する一人ではあったが彼が今歩いているのは幽鬼の温室。自分が所有するワインセラーへ行く途中、他の十傑たちが管理する温室の視察といった具合だった。そして彼が温室を持つ目的はただ一つ、目がないワインや酒類のため。



温室の中ほどに来た所で人の気配を感じ、ふと足を止める。

「幽鬼か?奴は今アルゼンチン支部で作戦中だったと思うが・・・」

管理を手伝っている下級エージェントというわけでも無かった。気配する方へ見やれば少し離れた先の大きな林檎の木の上で木陰から赤いスカートが見え隠れしてた。

「あれは・・・」

気づいた時にはその赤いスカートが木から落ちようとしていた。
咄嗟に疾風と化して小さい体を二つ腕に受け止める。

「おや、スカートはいたお嬢ちゃんが木登りとは、これは勇ましい」

「あ・・・ヒィッツカラルド様、ありがとうございます・・・」

突然の事で赤い瞳を丸くしていたが、我に気づいて恥かしそうにスカートを押さえ、ヒィッツカラルドの腕からサニーは降りた。

「あの・・・ごめんなさい・・・」

サニーが気まずそうに地面を見る、そこには林檎が一つ転がっていた。

「ん?もしかしてここの林檎を食べようとしたのか?」

綺麗に赤く色づいた林檎、今が一番美味しい時だとよくわかる色だ。
サニーは悪い事だとわかっているらしく俯いて小さく頷いた。

「ふふ、私は別に構わないけどな、第一ここは私のじゃない幽鬼の温室だ。だがあれが気づいたらうるさいだろうよ、なんせ我等の中でも一番熱心な温室守だからな。お嬢ちゃんでも覚悟した方がいいんじゃあないかい」

彼なりのささやかな意地悪で脅しを含んだ口調で囁きかけてみる。
もっとも幽鬼がこの程度のことでとやかく言うことは無いのを知った上でだが。

「ごめんなさい・・・つい・・・」

歪んだ白眼の表情にサニーは怯え、ますます小さくなって俯いた。
サニーはヒィッツカラルドが少し苦手だった。
小さい頃はわからないがある程度成長してから彼がたまに見せる暗く澱んだような白眼の表情と、薄い笑みが子どもながらに危うさを感じるからだった。だから普段は積極的に会話をすることも、接点を作ることも極めて少ない。

「ふむ」

ヒィッツカラルドは地面に転がっている林檎を手に取るとスーツの裾でそれを磨いた。
艶々と赤い色を深めて林檎は輝く。

「お嬢ちゃん、どうしてこの林檎を食べようと思った?」

「最初は見てただけだったの・・・でも、でもとっても・・・おいしそうだったから・・・その、もうしませんごめんなさいっ」

「ふふふふふ、正直でよろしい・・・」

手にあるそれは確かに少女を惑わせるに十分な魅力の林檎。

「なるほど、お嬢ちゃんが木登りしたくなるほど美味しそうだ」

「えへへ・・・」

サニーは今更ながらに自分の大胆な行動を恥かしく思うが、意外なことにヒィッツカラルドが自分を叱らずに惑わされた気持ちを察してくれたことに安心した。これが例の後見人であればきっちりと小言を言われ窘められる覚悟が必要だが。



ヒィッツカラルドは手にある林檎を見つめる。
美味しそうだが何ら変哲も無い赤い果実。

かつての自分もこうして林檎を盗って食べたことがあったかもしれない。

まだ林檎が大きく感じるくらい、手が小さかった頃だろう。

木に登って盗ったのか?
それとも・・・指を鳴らした?
誰かと一緒に食べたのか?
誰とでもなく一人で食べたのか?
林檎を自分はどんな顔して食べた?
笑っていた?
泣いていた?
その林檎は美味しかったのか?


その記憶はとても大切だったような気もする。
でも、無い方が良かったような気もする。

「・・・・・・・・・・・」

遥か昔に丸めて捨ててしまった過去。
思い出そうにもどこに捨てたかわからない。
それに、自分は今ここにいる。
もはや思い出す意味も無い。



彼は林檎を軽く放り上げるとパチンと指を鳴らした。再び手に落ちた時に林檎はぱっくりと二つに割れ、果汁に煌めく断面を披露する。そしてためらう事無く半分のそれを口に運び、思い切り良く齧りついた。

「あ・・・・」

サニーはヒィッツカラルドの思わぬ行動に少し驚いた。自分同様に食べてはいけないとわかっている林檎をシャクシャクと音を立てながら彼は芯も残さず食べていき、そしてお終いとばかりに濡れた白い指をペロリと舐めてしまった。

「ふふふ・・・『おいしそうだったから』私もつい食べてしまった・・・・というわけだ。」

背の高い身体を折り曲げるとサニーの小さな手にもう半分の林檎を乗せた。

「さあ、これで私も同罪だ。遠慮なく召し上がれお嬢ちゃん」

サニーはそう言うヒィッツカラルドの顔を見た。初めて見る表情だ。暗さも無ければ澱みも無い。一緒になって子どもの悪戯を楽しんでくれるような笑顔を見せる。サニーはとても嬉しくなって思い切って林檎に齧りついた。

「おいしい・・・」

「食べてはいけない物は美味しいものなんだよ」

肩をすくめて笑いヒィッツカラルドは身体を起こし再び指を軽く鳴らす。今度は良く熟れた無花果が二つ、彼の手に落ちてくる。無花果を手で割ると豊潤な香りが漂い、濡れた果肉が自分を誘う。彼はそれも惑うことなく口にした。

「ほら、これもなかなかいける、お嬢ちゃんも食べるがいい」

サニーも無花果を手渡され、これも美味しそうに食べた。

「あの、ごめんなさいヒィッツカラルド様、私のせいで、その・・・」

「なぁに悪いのは美味しそうな顔をしたこいつらだ、ま、このことは2人の秘密としよう」

ヒィッツカラルドは笑って唇に人差し指を添える。
それは子どもでも知っている『秘密』の仕草。

「はい・・・」

サニーも笑って同じ仕草を一緒に取る。

サニーは大人であるヒィッツカラルドから「秘密」と言われて不思議と罪悪感が消えていき、それどころか何故かワクワクしてしまう。しかも食べてはいけない物を食べてしまい、それがまた格別に美味しい。

彼女はまだ子どもだったがそれは本人も気づかない甘く背徳めいた悦び。
子どもの無邪気な悪戯であろうとも、欲望に打ち負け蕩けるような罪に身を浸す心地良さには違いなかった。しかし身を浸しすぎると決して這い上がれない深い沼底でもある。
もちろんサニーはそんな沼底が存在することを知らない。


「ふふふ・・・たまにはこんな使い道もよかろう・・・」

つぶやきながら指を鳴らすと一段と大きく赤い林檎が手に落ち、それをサニーに手渡す。

「見つからないように私のワインセラー側を抜けて出るといい」

「ありがとうございます、秘密・・・にしますね」

彼の白い指で手渡された大きな林檎。心臓がドキドキしている、顔が熱くなるのが良くわかる。悪いことなのに嬉しくて仕方がないからだ。ただの大きな林檎なのに、まるで神の至宝を手にしたような高揚した気分のままサニーは温室を駆け抜けていった。





ヒィッツカラルドは温室の出口へ駆けるサニーの背中を見えなくなるまで見つめていた。

「甘く美味しいからといって食べ過ぎてはいけない・・・」

一人彼は指を鳴らす。

「私みたいな取り返しのつかない、救い様の無いほど真っ黒な人間になってしまうから・・・気をつけることだお嬢ちゃん」

手に落ちてきたのはやはり赤い林檎。


そそのかしたのは無邪気な蛇。





遥か昔に丸めて捨ててしまった過去。
思い出そうにもどこに捨てたかわからない。
それに、自分は今ここにいる。
もはや思い出す意味も無い。






光が届かない沼底の中、彼は蛇に見せたかつての笑みで神の至宝に歯を立てた。








END







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「サニーのママは?」


---ほらきた、樊瑞は心の中で舌打ちした。

いつかはこの幼女からこんな言葉が吐き出されるのではないかと私は予想はしていたし、覚悟はしていた。そして今それが現実のものとなった。わかっていたのだ、そうだ、わかっていたはずだ。しかし同時に「ママ」などと教えてもいない単語をどこのどいつが吹き込んだのか・・・ええい腹が立つ。

「ママは?」

さて、どうしたものか。予想はしていて覚悟はしていたのだが実際にこの事態に直面した場合どう対処するかなど考えていなかった。いや、考えたが思いつかなかっただけだ。こんな時は何て言えばよいのだ?

「あー・・・サニーのママはお買い物に行っているから、そのうち戻る」

馬鹿か私は、なんだその「お買い物」というのは、ここはBF団本部だぞ。どこへ買い物に行くというのだ。もう少し気の利いたことが言えんのか。そうだ「サニーのママはお星様になったんだよ」とか、うむ、こう言えば良かったのだ。非常に夢を感じさせて子ども向けではないか。

「いつもどるの?」

いつ?いつと言われても。どう言えばいい?

「そのうちだ」

そうだ、これしかない。これで乗り切ろう。お、サニーも納得したのか積み木遊びを始めたぞ、よしとりあえずは逃げ切った。


---しかし、胸をなでおろす樊瑞だったがサニーの問いはその後も続いた。
---「いつもどるの?」「そのうちだ」これが毎日何度も交わされた。


そのうちなんとなく気づいて納得するだろう、そう楽観していた。ところがどうだ自分がなんとなく言ってしまった言葉がこうも自分の首を絞めることになろうとは。今日など「そのうちっていつ?」と鋭い内容に変わってしまった。

いかん、いつのまにか詰んでしまって王手をかけられてしまった。







「というわけなのだ、アルベルト。どうしたらいい?」

「・・・」

くそ、こいつ今あからまさに嫌な顔をしおった。誰のお陰でこの私が混世魔王たる私がこんな苦労をしていると思っているのだ。本当に無責任な男だ、まったく腹が立つ。

「私はもう親子の縁は切ってある、そんなことは貴様が考えろ」

でた、二言目には「親子の縁は・・・」だもう聞き飽きたわ。まったくその台詞を都合のいい免罪符か何かと思っているのか。ああそのすかした横っつらを殴ってやりたい、こいつは本当に最低だ。父親だけでなく人間としても終わっている。

「縁を切ろうが切るまいが親子であるのは変わりないだろうが、これはもう私の範疇ではない、お主の仕事だ」

そうだ、我ながら正論だ。自分でまいた種を投げ出して押し付けてしまった感じはしないでもないが、我が子を他人に押し付けるよりは遥かにましではないか?違うか?お、随分大きな溜息をついたなこの男。ほら、腹をくくってしまえ向う所敵無しの『衝撃のアルベルト』の名が泣くぞ。


「・・・サニーはどこだ」












「パパぁ!」

サニーも現金な奴だと思う。こんなに私が毎日愛情を注いでいるというのに滅多に顔を合わせない父親が出てきたら途端にこれだ。あーあんなに嬉しそうに足にしがみついて・・・アルベルトも抱きかかえてやればよかろうものを。もっとも奴が娘を抱きかかえているのを見たのは私に預けにきたときだけだったな。

「パパ、サニーのママはいつかえってくるの?」

そら、どうする衝撃のアルベルト。お主ならなんと答える?

「おまえの母親はいない」

「な、おいアルベルト・・・」

「だから帰ってもこない、待つだけ無駄だ」

いきなりそういう事を言うか・・・こいつ・・・。確かに我々は血も涙も無い十傑集だ、しかしこれはいかん、これだけはいかん。酷過ぎる。

「ちがうもん!ママはおかいものにいってるんだもん!!」

「ふん、ならば気が済むまで待っていろ。それが嫌なら自分で探せ」

「ああ!サニー!」

部屋から飛び出して行ってしまった・・・。ここはBF団本部内だ、どこへ行こうというのだ、居もしない母親を探すのか?アルベルト!貴様本当の本当に見下げたやつだ!なんだその目は、何故私を睨む、睨まれるのは貴様の方だ!

「放っておけ」

「・・・」





---樊瑞は殴ってやりたい気持ちを抑え、事の次第を見守ることにした
---しかし時間を追うごとに他の十傑集がやって来るようになった






「おい樊瑞、さっきお嬢ちゃんが私の部屋にきて『ママ見なかった?』などと聞いてきたぞ」

幽鬼・・・すまん、全てはアルベルトが悪い。

「お前のところにも来たのか、私のところにも来てソファの下を覗いていたが」

ヒィッツカラルド・・・

「っち・・・ママ、ママ・・・樊瑞めざわりだ、あんなの縛っておけ」

レッド・・・

「ワシのところにも来て泣きながらデスクの下を覗いていたぞ?」

カワラザキ・・・

「ダメじゃないか樊瑞、サニーちゃんがかわいそうだ」

セルバンテス・・・

「子どもを泣かせて何をやっているのだ魔王」

残月・・・

「衝撃大人が息女の問いに困惑しきり・・・」

十常寺・・・

「・・・」

怒鬼・・・


『樊瑞!!(×8人)』



「・・・すまん・・・」

何故私があやまらねばならんのだ・・・アルベルト貴様、何ふんぞり返って悠長に葉巻なんぞ吹かしている!貴様の分も頭を下げてやっているのだ!!!!8人分だぞ8人分、この混世魔王がだ!せめて半分の4人くらいは貴様が受け持て!

「・・・皆すまんな、だがあれは放っておいてやってくれ」

「・・・」

初めてだった、アルベルトから「すまん」などという言葉を聞いたのは。まぁふんぞり返って葉巻を吹かしている状態での言葉だが。お、連中も互いに顔を見合わせてゾロゾロと帰っていきおった。なんだなんだ、あんな男のあんな態度での謝罪で納得するのか貴様らは。

「まったく・・・」

「樊瑞、貴様もだ・・・すまんな」

「・・・」

私も何も・・・言えなくなってしまった。この男の、母親がいない子供を持つ父親としての罪悪感がそうさせているのだろうか。いや罪悪感などこんな傲慢な男にあるものなのか?わからん・・・。相変わらずの態度で葉巻を吹かしてはいるが、奴はどういう気持ちでいまここにこうしているのか。

そもそも自分は『後見人』という立場であってもサニーの『父親』ではない。もちろん父親代わりのつもりであるし父親としての気持ちで接してきた自負はある・・・しかし本当の父親であるならば、やはりアルベルトと同じ事を娘に言うのだろうか。そしてそれは正しい事で娘にとって最善なことなのだろうか。考え出すとわからなくなってしまった。


---しばらく2人の間で沈黙の時間が流れた
---樊瑞は思考の輪に捕われ、アルベルトは1本の葉巻を最後まで吸いきる
---長いようで短い、そんな時間だった
---そしてサニーが樊瑞の執務室に戻ってきた



サニー・・・随分と走ったのかよろめいて、髪はあちこち跳ねてしまって・・・泣き腫らした顔が真っ赤になって涙でグチャグチャ。どんな想いでいない母親を探していたのかと思うと私にはサニーの今の姿は見るに耐えない。ああ・・・フラフラしながらソファにもたれかかり、母親探しに精根尽き果てたのかそのまま眠ってしまった。

サニーは・・・また明日もこうして母親を探すのだろうか、その時私はどうしたらいい?


「今日は私が預かる」

「なに?あ、おいアルベルト!」

最初にサニーを預かったときは既に奴の腕に抱かれていた状態だったが、アルベルトが自分の手でサニーを、娘を抱き上げたのを見たのはそれが初めてだった。

眠るサニーに手を伸ばし小さい身体を包み込んで自分の大きな胸に寄せている。あのアルベルトがだ、想像もつかなかったはずなのにそれはやはり父親と娘、不思議とあたりまえのような・・・光景だった。

サニーはアルベルトの胸に抱かれて安らかに眠っている。いない母親を探して疲れ果て、父親の胸の中で眠っているのだ。わたしは何故か寂しい気持ちになったがそれ以上に心からの安らぎすら感じた。そしてオロオロするばかりで何もしてやれなかった自分が少し情けなくなってしまった。

「明日には貴様に返す」

そういってアルベルトはサニーを抱いて出ていった。


返す?返すも何も、サニーは・・・お主の娘だろうが・・・。









次の日、サニーが再び私の元に戻ってきた。そして心配していたサニーの「母親探し」は無かった。さらに気のせいかサニーは少し大きくなったようにも思える。幼いながらに自分の中で母親が居ないことを受け入れたのだろうか。

もしあのまま私が曖昧な態度をとっていたらこの子はずっと帰らぬ母親を待ちつづけて・・・サニーもわかってはいたはずなのだ、自分に母親がいないだろうことを。それでも期待させ待たせ続けさせたのは私だ。一番酷だったのは私だったのだ・・・方法が極端であってもやはりアルベルトのとった対処が正しかった・・・のか?


「アルベルト、お主が正しかったということか」

「正しいとか良かったかどうかなど知らんしどうでもいい、それはサニーが決めることだ。それが今でなくてもだ。最終的に本人が納得すればそれでいい。」

この男らしい考えだと思う。自分の信念を貫くのにうらやましいくらいに躊躇いが無い。そして意外だったのが傲慢な男のはずなのに自分が正しいと思っていなかったこと、良し悪しの判断を娘に任せていることだ。なんとなくだがこの男が娘に対してどう考えているのか、少しだけわかったような気がする。

そして私は自分が自分で答えを出そうとしていたのか・・・。

「ふぅー・・・・・・正直サニーを預かることに・・・自信が無くなったぞ」

「面倒な奴だな貴様は。いいか、安心しろ私なぞよりずっと貴様の性根が『父親』だ」

最後の言葉は心から喜べなかった。あんな、「父親のアルベルト」を見てしまったら私などいったい何だというのだ。

「・・・」

「何を小さくなっているんだ、胸を張っていろ混世魔王」

「・・・」

「まったく・・・・・まぁいいサニーは貴様に任せたのだからな」

お父様からお叱りと励ましのお言葉を頂いてしまった。そのやりとりの中サニーは積み木遊びをしている。サニー・・・私はいったい何なのだろうな?お前のお父さんからお父さんだと言われてしまったんだぞ?遊んでないでこの小さな混世魔王に教えてくれないか?









END


------------------
残月はまだ十傑じゃないじゃんとか言うの無し。



「サニー、君が読めるような本はだいたいこの辺りだ、好きな本を持っていくがいい」

「ありがとうございます、残月さま」


十傑集『白昼の残月』の執務室。
大きなガラス張りの窓は日の光を存分に部屋に注ぐ。その大きな窓と部屋入り口の扉以外四方の壁面は天井まで届く書棚、そしてそれ全ては隙間無く本で埋め尽くされている。その一角を部屋の主は指差す。

サニーは最近本を読むのに凝っている、まだ読めない文字も多かったがそれでも読める文字が増えるに従って彼女は読書に熱中した。以前は挿絵の多い子供向けのものを読んでいたが、最近では大人が読むような活字がビッシリとこびり付いたような本にも手を出し始めた。

ちなみにBF団には世界中にある古い本、新しい本が集められた図書室がある。書籍という形の場合もあればデータベースとして保管されている場合もある。サニーはその図書室を利用することも多かったが今日はこの執務室である「残月の図書室」にいる。

残月はおそらく十傑集でもっとも多くの本を保有する人間であるかもしれない、十傑一の頭脳といわれる十常寺も相当量の本を抱えてはいるが彼の場合ジャンルが偏っている。しかし残月の持つ膨大な量の本はジャンルは豊富だった。

若年ながらに十傑に名を連ね、達観した喋りや態度を隠さない事を裏付けるものなのか彼自身知識に関しては貪欲な方である、また知識というものは単純に多いだけでは意味は無い、そうも本人は考えており柔軟な知性と感性を自分に求めていた。結果、彼の所有する本は斯くもバラエティに富んでいる。

物理学、経済学、ロボット工学、天文学、心理学、歴史・民族学、人間力学、宗教学・・・。
このあたりは他の十傑でも持っているようなジャンルである。
残月の場合これらにさらに時代小説、推理小説、自伝、童話、詩集、挙句は恋愛小説まで含まれた。これはさすがにBF団の図書室には存在しない、あってもいわゆる「名著」とよばれるものしかない。他の十傑も持っている者は少ない上冊数も少ない、恋愛小説など尚更。つまりそれが今日「残月の図書室」にいる理由でありサニーの目当てだった。



「今日はもう私に任務は入っていない、急ぎはしないからゆっくり選びなさい。紅茶をいれてあげよう、ダージリンは好きだったか?」

「はい、大好きです」

残月は火の点いていない煙管を手の上で叩いた。すると床から半球状のガラスケースが現れ中にはそろいのティーセット。ガラスケースが自動で開き残月は茶葉を取り出す。それを鼻に寄せ香りを少し楽しんでから温められたポットへと入れた。

お茶を入れながら横目で見るとサニーは恋愛小説を手に取っていた。その小説はどちらかといえばサニーにはまだ早い少し背伸びした内容だ。濡れ場などは無いがなかなか官能的なキスシーンがあり、男と女が手と手を取り合い駆け落ちしてしまう悲劇的な大恋愛。読ませていいものかどうか残月は迷ったが好きにさせようと敢えて声は掛けなかった。

サニーは選んだ三冊をテーブルに置いて、残月と向い合う形でソファに座る。
見れば先ほどの駆け落ちの本と、そして他の二冊も恋愛小説。

この少女はそういう年頃になったということか、残月はそう思う。

あの真面目で少々過保護な「後見人」がこれを見たらどう思うのやら、残月は自分の顔のほとんどを覆う覆面の下でこっそり笑みを漏らした。


「残月さまはラブレターを書いた事がありますか?」

「む?」

突如の予測していなかった質問に残月は言葉を喉に詰まらせた。
目の前の少女はダージリンを手にいたって真剣な面持ちでこちらを見ている。

「ラブレターってどうやって書いたらいいのでしょう・・・」

「ラ・・・ラブ・・・レターか・・・サニーは誰かにラブレターを出すつもりか?」

その質問にサニーはすこし照れた笑顔を返すだけ。残月はどうそれを捉えていいのか悩んだ。はて、このBF団にこの少女からラブレターを受け取るような者がいただろうか。あれこれ顔が浮かんでは消えていく、そして誰も残らない。

「あの・・・書いてみたいのです、よければ手伝っていただけますか?」

---ラブレターを?私が??

「セルバンテスかヒィッツカラルドの方が器用そうな気がするが、何故私なのかね」

口が達者なセルバンテス、そして伊達を気取ったヒィッツカラルド。
どう考えても自分より女を夢中にさせて落すような文面を考えつきそうだと残月は思う。
まぁこの場合は対象が男ではあるが。

「残月さまにお願いしたいのです」

サニーは恥かしそうに三冊の恋愛小説に目を落す。
彼女としてはこういった本を持っている残月に頼ってみたくなったらしい。

「・・・」

この少女が自分の何に期待を寄せているのかはわからない、だが何故か残月はこの少女が望むようなラブレターを書いてみようと思った。

---自分も随分と粋狂な男かもしれんな。

残月はやはり覆面の下で笑みを漏らすと何も言わずソファから立ち上がりデスクの引き出しをあける。中には大量の便箋と封筒がありそのどれもが事務用であり仕事につかう色気のないもの。しかし一番奥にやや明るいクリーム色の便箋と封筒があった。それを取り出す。万年筆は彼が所有する数多くの中から一番繊細で優美なものを選んだ。

再びソファに座り、サニーを手招いて横に座らせた。

「それでは一緒に考えるとするとしよう」

「はい」

サニーは笑顔でうなづいた。



まずサニーの思い描くラブレターのイメージを訊いてみる。
入れたい言葉のイメージも訊いてそれを残月が大人の言葉に直してみる。
そしてサニーの希望でしゃれた詩も引用してみる。

ダージリンの香りに包まれて少女のラブレターはゆっくりと紡がれていった。


少女が語るイメージと希望に基づき、何度かの推敲をかさね出来上がったそれは愛を囁き、また愛を叫ぶ、コクトーの詩が含まれ情熱的で臆病、陶酔の中に切ない想いが見え隠れする熱烈なラブレター。
しかし愛を訴えるべき相手の名前は一切文中に無い。
そしてこの少女自身の名前もどこにも無い。

「・・・・・・・・ふむ」

まるで一編の詩のような文面。
内容も子どものものとは思えない随分と大人びたもの。むしろ絵にかいたような代物と言って良い。しかし隣に座っている少女を見れば目をキラキラ輝かせてうっとりとした表情でクリーム色のそれを眺め、紡がれた文章を読んでいる。

差し出す男を想うそれではなく、自分に夢見るような眼差し。

残月はこのラブレターが誰に渡されるものではない事を悟った。


「ありがとうございます、残月さま」

「なに、なかなか楽しませてもらった。サニー、これは鍵のついた箱か引き出しにしまうのが良いだろう、私からの提案だ」

丁寧に折りたたんでクリーム色の便箋に入れ、サニーに手渡す。

「はい、もちろんです!・・・あの・・・おじ様には内緒にしてくださいね」

照れたように微笑むサニーに残月も楽しくなる。

「心得た」

サニーは「ありがとうございました」と残月に深々と頭をさげ、三冊の恋愛小説と一通のラブレターを宝物のように大切に抱きしめて「残月の図書室」をあとにした。







それから一週間後、『残月の図書室』にドカドカと大きな足音を立てて『後見人』がやって来た。もちろんそれは残月が予測していたことである。もっとも、もっと早く彼がが訪れるかと思ってはいたが。


「残月!!お主サニーに何をたらしこんだ!」

なかなかの剣幕である。

「たらしこんだとは随分な言われようだが」

覆面に相変わらず動揺は見られない、常と変わらぬしれとした態度で煙管を咥える。

「こ・・・こんな本など貸しおって・・・サニーにはまだ早い!」

突き返されたのは二冊の恋愛小説。
『後見人』はまったくとブツブツつぶやいてさっさと出ていってしまった。
残月はつき返された二冊を見る。

どうやらあの一冊は見つからないで済んだらしい、そう、一番背伸びしたあの駆け落ちする話だ。そして夢見るラブレターは見つかる事無く少女にちゃんと鍵をかけられてしまわれている、そういうことだった。



---恋に恋する乙女の気持ちとやらは魔王にはわかるはずもない、といったところか。

---無粋な男たちに囲まれて、それでも少女はひとりの女になっていく。



残月は感慨深げに紫煙をくゆらせた。




END








世界征服に勤しむ悪の秘密結社BF団には盆も正月もクリスマスも祝日休日その他諸々の世間一般の行事事は一切関係無い。

例えばクリスマス、町々で赤や緑の色が溢れクリスマスソングが所じゅうに流れようと、子どもがウィンドウ前で親にオモチャをねだろうとそれはまったく関係の無い世界、そんな中でも火柱を上げて黒煙を身に纏い、血を染めて笑いあげる。

それが彼らの当たり前。

そもそも世間でいう当たり前を全て捨て去った連中がBF団なのだから。

しかし、そんなBF団であったがある1人の少女の出現によって大きく変わる事となった。
いつの間にか彼女を中心として「世間でいう当たり前」が行われるようになったのである。


最初はその少女、サニーの誕生日から始まった。


サニーが3歳の誕生日、誰かが彼女に誕生日プレゼントをあげた。
それが誰なのかはわからない、朝起きて見ると枕もとに青いリボンを首に巻いた熊のぬいぐるみと赤いリボンを首に巻いたうさぎのぬいぐるみが置いてあったのだ。後見人の樊瑞は謎の二つのぬいぐるみを前に首を捻ったがぬいぐるみに添えられていたカードに「Happy birthday」とあったのでその日がサニーの誕生日であることをそれで知った。

サニーはその熊と兎を両手いっぱいに抱きかかえ、BF団本部内を歩き回った。みんなに貰ったプレゼントを見て欲しかったのだ。すこし紅潮した笑顔を振りまきながらサニーはぬいぐるみを愛しそうに抱いてそれらを十傑集たちに披露した。

そして次の年のサニーの誕生日にはいろんな種類のプレゼントが枕もとに置かれた、やはりこっそりと。それからだった、BF団内にクリスマスにはクリスマスの空気が流れ、そして今日のようにハロウィンにはハロウィンの空気が流れるようになったのは。







大きな籠を手に、四歳のサニーはBF団本部の大回廊を歩いていた。

いつもと違うのは頭に兎の耳をつけている、そしてお尻にはやはり丸いうさぎの尻尾。大きな赤い瞳を輝かせてBF団の小うさぎはカワラザキの執務室のドアをノックした。中から「入りなさい」とカワラザキの落ち着いた声が聞こえてサニーは勢い良くドアを開けた。

「トリック・オア・トリート!」

元気良くそう宣言すると白衣姿のカワラザキが笑って部屋の中へと手招いた。いつも丁寧に後ろに撫で付けられた白髪は今日に限って乱れている、本人曰く「ジキル博士とハイド氏」のつもりらしい。そして彼の隣に座っていたのは狼男の幽鬼、耳と尻尾がそれらしくついており、本人は少々照れくさそうだった。

「さあサニーお菓子だ」

「ありがとうございますおじいさま」

受け取ったのはガラスの瓶に入った動物の形をしたビスケット。

「む?もう他の連中からもらったのか?」

籠から覗く桃色の包み紙を幽鬼が見つける。

「はい、十常寺さまからげっぺいというおかしををいただきました」

可愛らしくちょこちょこと狼男の幽鬼のもとに近づいて籠の中身を披露する。幽鬼は自分の膝の上に小うさぎを乗せてやり月餅を手にとって見た。十常寺が好きなお菓子だ。ちなみに彼はいわゆる「キョンシー」の姿でサニーを出迎えた。

「じゃあ私からはこれをやろう、だから悪戯は勘弁してくれよ?ふふ」

猫背の狼男から小うさぎに手渡されたのはマーブルチョコ。

「じゃあサニーや、また後でな」

「はい、ありがとうございました」



サニーが次に向ったのはヒィッツカラルドの執務室、しかし途中怒鬼と出会う。怒鬼は白装束に△の布を頭につけた説明不要の姿。

「あ、怒鬼様」

「・・・・・・・」

相変わらずの寡黙ぶりだが口に笑みを湛えて小うさぎの頭を撫でる。

「トリック・オア・トリート!」

呪文のようなその言葉を投げかければ怒鬼は懐から和紙に包まれた金平糖を取り出し籠に入れてやる、子どもが喜ぶような色とりどりの日本の飴玉だ。

「サニー殿、我等からもお菓子でござる」

そう集団で言うのはやはり血風連の一団、いつからいたのか幽霊怒鬼の後ろにいた。
血風連からもらった山盛りいっぱいのラムネ菓子で籠はいっぺんにあふれかえった。

「怒鬼さま、けっぷうれんのみな様、ありがとうございました」

耳を下げて笑顔でお礼を言い小うさぎはその場を後にした。




「トリック・オア・トリート!」

次にサニーを出迎えたのは死神。真っ黒なマントを頭から被った白い目に白い顔をした死神だ。ご丁寧にどこで作ったのか模造ではあるが大きな鎌が彼の執務室に立てかけられている。

「おや、これは可愛らしいうさぎちゃんだ。よく狼男に食べられなかったものだな」

笑いながらデスクの引き出しからラミネート包装の中に入った小分けされたベビードーナッツを手渡してやる。

「ありがとうございますヒィッツカラルド様」

「しかし随分と籠がいっぱいだな、少しここで食べていくかねお嬢ちゃん、いや今日は小うさぎちゃんか」

サニーをソファに座らせて紅茶をいれようとした時だった。

「トリック・オア・トリートだ!!菓子をよこせ!」

ヒィッツカラルドの執務室のドアを蹴破るように入り込んだのは赤いマスクをつけた悪魔。何故悪魔なのか、それは頭に↑の形をした角らしきものが二本生えており、お尻からも尻尾なのか→が生えていた。そして手にもやはり大きな↑。襟が大きく立った真っ黒なスーツで今日ばかりは赤いマフラーはどこかに置いてきたらしい。

「なんだレッド、それは虫歯菌のつもりか?」

「むし・・・!これのどこが虫歯菌だ!ええいそんなことはどうでもいい菓子をよこせっ」

サニーがBF団に来てから始まったこの行事に「くだらん」「馬鹿じゃないのか」などと愚痴を言っていたレッドだったが、実は一番彼が楽しみにしているといっていい。生まれてこの方こういった行事を楽しむことが一度も無かったからなのかもしれない。本人は気づいてはいないがレッドは生まれた時から「子どもの自分」を全て取りこぼしてきた人間だったからだ。

それに、実は甘い物好きなレッドとしては堂々とお菓子をせびる事ができるこの行事は願ったり叶ったりでもある。ちなみにレッドはハロウィンでお菓子を貰うのは子どもの役であることなど知るはずも無かった。


「はー今年は貴様も菓子をせびるようになったとはな・・・やれやれ・・・」

残っていたドーナッツをひとつ、死神が赤い悪魔に面倒臭そうに投げよこしてやる。

「ふん、ドーナッツかまぁいいだろう」

詰まらなさそうに鼻を鳴らすがさっそく包みを破いて口に放り込んだ。そして横に座るサニーを見る、籠はラムネ菓子で溢れかえらんばかりになっていた。

「おい、どうせ食いきれぬのだろうが、私が手伝ってやろう」

そう言うと有無を言わさず籠に手を突っ込むとラムネ菓子を鷲掴んだ。

「あ!」

レッドはそれらも口に放り込みボリボリと噛み砕いて食べてしまった。
少し涙目になりその様子を見つめるサニー。

「貴様な、子どもの菓子を横取りしてどうする」

「横取りではない、善意だ」

相変わらずの解釈にさすがのヒィッツカラルドも呆れ果てるが仕方が無いのでレッドの分の紅茶も入れてやりサニーのお菓子回収は一端休みとなったのだ。しかしレッドの出現のお陰で籠に入っていたお菓子が半分ほどになってしまった。サニーは今にも零れそうな涙を必死に堪えるのに精一杯。

「っち、なんだその顔は・・・鬱陶しい奴め。どうせ今からまた菓子をせびりにいくのだろうが、私も一緒にせびってやる、その籠をまたいっぱいにしてやろうというのだありがたく思え」

「レッド様ほんとう?」

「ふん、嘘など私は言わぬ」

そのやり取りに肩をすくめて笑うのは死神だった。






「トリック・オア・トリート!!」

小さなウサギと悪魔が元気良く叫べば目を丸くする残月。いつもの覆面についている四つの玉飾りは今日に限って小さなお化けカボチャ。芸の細かいことにお化けカボチャの目と口が光っている。そして黒いマントを背につけてデスクの上にはランタンが置かれていた。

「レ、レッド・・・?」

やってくるのは小うさぎだけかと思っていたのだが。

「なんだ、ほらさっさと菓子を差し出すがいい、さもなければ殺す」

悪魔に殺されては適わぬと苦笑する他なく残月はまずサニーの籠にチョコクッキーの包みを入れてやり、悪魔にもそのクッキーの残り一枚を投げよこしてやった。

「それで我慢するがいい」

「っちこれだけか、しけた奴め、もっとよこせ」

「まったく・・・性質の悪い甘党悪魔だな、わかったわかった少しそこで待っていろ」

残月はデスク下から綺麗な柄のアルミ缶を取り出した。以前セルバンテスから任務先のお土産に貰った滅多に手に入らない高級チョコレートだ。来客用にとっておいたものだったが仕方が無いと諦めて中身を取り出した。

「サニー、随分と心強いお仲間ができたな」

笑いながらサニーの籠にたくさん入れてやり、レッドにも一握りのチョコを渡してやる。レッドは満足げな笑みを浮かべて早速口に放り込みモシャモシャと食べてしまった。

「残月さま、ありがとうございました」

「また後で会おう」

「さあ、次ださっさと私について来い」

悪魔の後ろに小さいウサギがくっついている姿にやはり笑う残月だった。








「トリック・オア・トリート!!」

「ばぁ!」

「きゃあ!」

「うおっ!」

セルバンテスの執務室から出てきたのはクフィーヤを被ったミイラ男。手や顔は包帯でグルグル巻き、その上からゴーグルをつけた陽気なミイラ男だ。

「うわーっはっはっはっは驚いたかね?うふふふふ」

「セルバンテス貴様っ」

「おやレッド君、君もお菓子が欲しいのかね?はっははは、よかろうセルバンテスのおじさんがたくさんあげよう」

カラカラと笑うミイラ男に子ども扱いされたのはおもしろく無いがドッサリと手渡された様ざまなお菓子に心奪われそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。

「ふん、なかなか気が利くではないか」

「サニーちゃんもどうぞ?でもサニーちゃんの悪戯なら私は喜んで受けるんだけどねぇ」

やはり笑いながらセルバンテスはサニーの籠にも溢れんばかりのお菓子を詰め込んでやる。セルバンテスもまたこの行事を心から楽しみにしている1人だった。

「セルバンテスのおじ様ありがとう!」

「なぁに、サニーちゃんが笑ってくれるのだから私の方こそがありがとうだ」

そう言ってミイラ男は小さなウサギを抱きかかえロイヤルミルクの髪を優しく撫でてやった。キラキラ輝く赤い瞳を覗き込めばセルバンテスはサニーの去年の誕生日にこっそりあげたうさぎのぬいぐるみを思い出す。

「ところでお父上からお菓子は貰ったかね?」

「いいえまだです、今からパパの所に行くの」

「ふん、あの男が菓子などくれるのか?」

「なあに3人で行けば陥落するさ」

ミイラ男は愉快に笑うのだった。








「トリック・オア・トリート!!!」

3人揃って叫ぶが執務室の中にいる主はモカのコーヒーを手にして新聞から目を離そうとしない。完全に無視している。ちなみにアルベルトはいつものアルベルト、自分のスタイルを清々しいまでに一切崩してはいない。

「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ~!」

これはミイラ男の台詞だ。

「やい、菓子をよこせ!」

悪魔の台詞。

「パパ・・・あの・・・お菓子・・・」

ウサギの台詞。

「他をあたれ」

そしてウサギのパパの台詞だ。

サニーが三歳になった去年から始まったハロウィンだが去年はアルベルトは任務中でいなかった。それに彼としては「馬鹿馬鹿しい」ことこの上ない行事、浮かれて仮装し菓子を用意する同僚たちの気持ちがまったくわからない。

「アルベルトくーん、お か し、ちょーだい」

「セルバンテス、その包帯を無駄にしたくないらしいな」

気持ち悪い声ですがりつく盟友を衝撃波のこもった手で押さえつける。

「衝撃の、菓子だ、私に差し出すがいい。さもなければ殺す」

「虫歯菌にくれてやる菓子などない、死ね」

胸を張って菓子を要求するとことん態度のデカい悪魔だったが生憎相手が悪かった。

それでもミイラ男と悪魔がネチネチと纏わりついてくるのでアルベルトはスーツの懐から取り出したキャラメルをまるで撒き餌のように2人に投げつけた。

「わー!アルベルトからのお菓子だ~」

「おお!キャラメルではないかっ!さすが衝撃のアルベルトだ!」

異常なテンションで2人はキャラメルに飛びつく。

「さっさと出ていけ!!!鬱陶しい!」

頬にいっぱいキャラメルを詰め込んだ馬鹿な大人2人をアルベルトは執務室から蹴り出した。しかししょんぼりしていたサニーだけその肩を掴んで出ていくのを止めた。

「パパ?」

2人に見られないように紙で無造作に包まれた数個のキャラメルをスーツの懐から取り出し、素早く籠の奥へと押し込んだ。

「・・・!パパ!・・・ありがとう」








「さて、ご一同、今宵はは大いに楽しみ飲んでくれ」

そう言うのはパーティーの主催者である樊瑞。伸ばし放題の長い髪を綺麗に一つに束ね、いつものピンク色のマントではなく真っ黒なマントそして顔には片側だけの白い仮面。そう、オペラ座の怪人である。1人を除いた十傑集たちがワインやビールを手に珍しく和気藹々(わきあいあい)と歓談し、宴を楽しんでいた。

「おや?サニーどうした?」

少し曇った表情でケーキにフォークを差し込む小うさぎの姿にオペラ座の怪人はいぶかしむ。しかしすぐに父親がこの場にいないことに気づいた。あの男のこと、こういうった催しと空気が苦手なのだろう。わかってはいるが耳が垂れ下がっている寂しげなうさぎを見るのは忍びない。

「少し待っていなさい」

そう言ってマントを大きく翻すとその場から怪人は消えた。









「アルベルト、パーティーはもう始まっておるぞ?」

「勝手にやっていろ、私は知らん」

執務室で1人ペーパーワークをこなしているアルベルトは吐き捨てるように言う。当然ペーパーワークなど彼にとってはどうでもいい仕事のうちに入るのだが、パーティーに加わる気持ちにはなれないらしい。

「お主がいなくてサニーが寂しがっている」

「貴様がいれば充分だ、私みたいな男がいたらせっかくの場が澱む」

「何を言うかそんなことはないぞ?そう自分を卑下するなお主らしくない」

傲慢がスーツを着たような男ではあるがたまにこういう発言をすることがある、樊瑞は溜息をついて懐から黄色い札を取り出すと札の前で片手で素早く「印」を結んだ。

「な・・・貴様何を!」

一枚の黄色い札がアルベルトの身体の周りを光りながら回った。
するとアルベルトの背中にコウモリの羽根のような黒いマントがつき、スーツは古風な燕尾服になった。

「ふむ・・・ドラキュラといきたいところだが私の想像力ではせいぜいその程度だ」

「ふざけるなっ!さっさと術を解けっ!!」

「ふふ、そうはいかんぞ?これも『後見人』としての勤めなのだからな」

怒鳴るアルベルトの足元に輝く方陣が現れてアルベルトは床に飲み込まれていった。









「・・・!」


うさぎの耳がピンと立ち、突如現れたドラキュラに飛びつく。
無事十人全員集合となったパーティーは明け方近くまで行われた。



そして毎年の行事として今後も行われるのであった。






END





○残月×サニー的
樊瑞のマントの中でサニーが隠れてる時、サニーが樊瑞の濃いオヤジ臭で倒れやしないかと心配です。マントの中の籠った濃厚なオヤジ臭に倒れてしまうサニー。
樊「証拠を見せよう!」
パッとマントを開けるとそこに倒れているサニーザマジシャンが。
樊「サニー!?サニー!どうした!何があった!!」
サ「か……かれ…」
樊「何?彼がどうした!」
レ「50代のおっさんのマントの中でずっと籠らされてりゃそりゃぶったおれるよな」
そこに幽鬼がそっと香水を差し出す。?なんだこれはと聞くと、
幽「リーダー、コレを使うといい。男の50代の体臭にきくぞ」
カ「儂が使ってる特製のものだぞ」
ダブルでとどめを刺しにくるし。ちなみにアルベルトの体臭は気品溢るるシャネルの五番です!だから戴宗はいつもアルベルトにクラクラしてるんじゃないの。
十「普段から肉ばっかり食べてるからこ言う事になるね。精進料理にするといい」
樊「サニー…!すまない…」
残月はサニーにオヤジ臭を拡散する方法を教えてあげるよ。樊瑞はそれをみてキイーッとなるよ。

残月兄さま、サニー可愛がってるしさあ。サニーが大きくなったらいずれ兄さまの守備範囲に入るしな! サニーがおっきくなったら兄さまに淡い恋心を抱く、とかも好きなんだー。おじさまには絶対に秘密だけれど兄さまは、なにかしら…とても良いにおいがします。憧れと恋がごっちゃになってるよーな感じの、残月のキセルを触ってみたがったりするよ。残月もからかって
残「吸ってみたいのか、サニー?」
サ「は、…はいっ!」
声が裏返ってしまって恥ずかしい!残月はまさか吸いたいって言い出すとは思ってなかったのでちょっと意外な気がするんだけど、ま少し吸えば気が済むだろうと吸わせる事にするのね。
残「ここに口をあてて軽く吸うんだ。肺の中に入れないよう、口の中だけでな」
サニーはもう残月兄さまの使ってるキセルに口を…!って間接キスにドキドキしてしてしまって、すでに顔が赤いのが自分でも分かる。勿論深く吸ってしまって盛大にむせるサニー
「ゲホッ…!ケホッ」
「ああ、肺に入れたな。…ほら、大丈夫、すぐに収まるぞ」
残月は笑いながら背中をさすってくれた。お優しい残月兄さまにこんな恥ずかしい所をみせてしまった。
サ「ケホ…、ごめんなさい、上手く出来ませんでした」
残月はサニーに微笑むと小さな声で、いいんだ、なれなくてもいいんだキセルなぞと仰った。 キセル口の鉄の味がまだ舌の上に残っている。鉄の味。これが、残月兄さまがいつも感じている味なんだわ。もっと大きくなったらもっと上手く吸えるのかしら。残月兄さまのように素敵な仕草で。
残「これでもう懲りただろうサニー」
サニーは現実に引き戻される。すると、年頃特有の悪戯めいた顔で笑うと「いいえ!」と軽やかに笑った。
残月はいつもこのサニーの笑顔に、少女の陽気さと無謀さを垣間みて、どう言葉をかけて良いかを悩む。このままでいて欲しいのと、そうでなく大きくなったサニーをみたいという気持ちが相反する。少女の心は移ろうから、きっと数年経てば自分から興味をなくすだろう。でももしこのままだったら自分はどうするのだろう、などとありもしない事を考えて、少し気分をもてあます。
サ「兄さま」
残「なんだサニー。また咽せたくなったのか」
サ「もう!違います!」
パッと残月からはなれて、立ち去りながら遠くから手を振る。
サ「次は…いえ、次も教えて下さい!また…ここに来ます!」
返事を待たないまま消えるサニー。残月は、ありえもない未来を少し望んだ。

○残月を始めは残月様って呼んでてさ。声が渋いから、ずっとおじさまだと思ってたんだけど、実は19歳という事を知る。
残「サ、サニー……。私がまだ10代なんだよ、こう見えても」
中年とよく間違われるから、実はこっそり傷ついてるんだよ…
サ「ええっ!?ごめんなさい!私、知らないとはいえ残月様をおじさまと同年だとばかり…!」
残「いや…知らなかったのなら確かに仕方ないが…。これからはこう、もっと年の近いよしみで固く呼ばないでもいいんだが」
サ「そうですか…残月おじさまではないとすると、残月兄さま…?とお呼びしてもいいのでしょうか」
残月「おじさま以外なら何でもいいよ私は」
サニーが、残月怒らせたと思ってビクッとする。
残「あ、ああ、違う、怒った訳じゃないぞサニー。そ…そう!さっきの兄さま、という呼び方が私は気に入ったぞ、そう呼んでくれるか」
そんなワケでサニーは兄さまと呼ぶようになりました。魔王はサニーに聞くと思う。何があったんだサニーって。サニーは、まさかおじさまと同年代と間違えましたななんていったらいけないと思って、
「残月兄さまと私の秘密だから、言えないんですおじさま」
って言われて樊瑞に十円禿出現。カワラザキに悩み相談の樊瑞。
「私は後見人として失格だろうか…」
とりあえずカワラザキは加齢臭対策の香水を差し入れしてやる。カワラザキ十傑集の相談役だから… こんな事やってるから十傑集退任できないんだよ。

ヒ「友達が出来ません」
カ「その口を慎みなさい、さすれば道が開けるでしょう」

レ「影丸が自分を無視して出てきてくれません」
カ「もっと挑発しなさい」

幽鬼「右肩が重いです」
カワ「塩をまきなさい。右肩の上あたりです。間違って自分に掛けると自分が消えてしまうので気をつけて」

ア「戴宗が素直にならん」
カ「なかぬならなかせてみせろホトトギス」
ア「よし、分かった!」って張り切って出掛けていくよ
セ「獲物を追いつめているアルベルトはキラキラしてるねえ」
数時間後もしくは数日後本部に帰ってきてとてもさっぱりした顔をしているアルベルトに質問するセルバンテス。
セ「なかせてきたのかい?」
ア「声を枯らすまでな。相も変わらず良い声で鳴いたぞ」
おお怖や怖や!衝撃のアルベルト!
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