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telepathy






BF団にその身を置いてサニーはようやく2歳になった。


『後見人』の樊瑞にその成長を見守られ、大切に慈しまれて育てられている。
そして相変わらず実の父親であるアルベルトとほとんど顔を合わせることもない。
樊瑞がアルベルトに「たまには自分の子どもを抱き上げてみてはどうだ、子が大きくなっているのを実感するのも父親の喜びだと思うが」と言うものの、アルベルトは「親子の縁は既に切ってある」の一言で切り下げる。娘を見ないで背を向けるその姿を見る度に樊瑞は溜息を漏らした。

それでもサニーが覚えた言葉で得意なのは

「おじちゃま」とそして「ぱぱ」だった。

最初は樊瑞を「ぱぱ」と呼んでいたが根気良く改めさせた。いくら実父が縁を切って自分に娘を預けたといっても自分は親ではない。物心つかないうちをいいことに自分を父親として刷り込ませるようなことは樊瑞にはできなかった。

父親かどうかはこの子自身が自分の意思で決めること、そう樊瑞は強く決めている。
そして2年前に自分がこの子を預かったときにもアルベルト本人にそう断ってある。
その時アルベルトは「わかっている」とだけ言った。




ある日を境にサニーはしきりに「ぱぱ」と言いながら宙をかくように手をバタつかせるようになった。サニーが「ぱぱ」と言う向こうにはもちろんその「ぱぱ」はいない。樊瑞は首を捻る。そして不安になる。その行動が頻繁に行われるようになったからである。

「これは少し問題があるのではないか?」

最古老のカワラザキに相談してみる。実の父親がいない不安定な環境で精神がすこし病んでしまったのでは?などと樊瑞は切り出してみたがカワラザキは意外と落ち着き払っている。

「病んでいるなどと・・・樊瑞、お主はサニーを懸命に育てておるではないか。確かに実父はアルベルトではあるが子どもにかける愛情の度合いは実父以上だとワシは思っておるが。現にサニーはお主によく懐いている」

そういわれれば少しは安心するし、また嬉しい気もする。実父ではないが長く時間を過ごせば親同様に湧く愛情が確かにある、それは紛れも無い事実。父親の真似事であると自分でも言い聞かせてはいるが感情は誤魔化せない。

この組織でこの身分の自分が親の真似事にある種の生きがいを感じてしまっている。

最初はとまどったものの自分に抱きつく子どもの温もりを感じればそんなとまどいが随分と小さく感じた。だからかもしれないが自分の子と縁を切るアルベルトが許せないでもあり、そして少し不憫にも思う。でも本人にそのことをもちろん伝えてはいない。伝えたらきっと「くだらん」の一言で片付けられてしまうのは目に見えているからだ。

サニーのことはもう少し様子を見よう。

樊瑞はカワラザキの執務室を後にした。

しかしサニーの不可思議な行動はその後も続く。毎日ではないが時折「ぱぱ」といっては見えない何かを掴もうとする。そんなある日幽鬼がBF団本部の敷地内にある自分の屋敷を訪れた。

「カワラザキの爺様に言われてな」

そう言うと猫背を小さく揺すって笑う。

幽鬼は相手の感情や思考を感じ取るテレパシー(精神感応)能力が十傑集一であり、すなわち十傑一ということは世界で並ぶ物なく最高の能力者である。テレパシー能力者は比較的多い、異能者でなくとも一般的な人間でも「なんとなく感じる」程度の能力を持っている場合がある。そしてその程度の感覚は本人にテレパシーという意識は感じさせない。また感じ取る対象が自分と波長が合う者であると条件が限られる場合がほとんどである。

しかし幽鬼の場合そのテレパシー能力に条件はほとんど無い。恐ろしい事にどのチャンネルもオープン可能にすることができる。それは端的に言えばあらゆる他人の思考や感情を好きなだけ覗き放題が可能であるということ。ちなみに十傑レベルの能力者ともなれば無意識下のうちに強い精神障壁張り、外部からの精神リンクを防いではいる。それは「防衛本能」に近い能力。しかし幽鬼本人がその気になり最大限に力を発揮した場合、十傑といえどもそれがどの程度機能するかはわからない。実際幽鬼本人も試した事は無いし、彼の場合することも無いだろうと樊瑞は確信している。

人の心を、望むとも望まざるともむやみに覗くとどうなるか、それは幽鬼本人が一番知っていることだからだ。


「子どもはどこにいる?」

幽鬼は樊瑞の広い屋敷を見渡し「こっちか」と迷う事無く2階へ上がる。樊瑞も何も言わずその後についていく。2階奥の扉を開くとサニーが積み木を組み立てて遊んでいた。

「どうする気だ、幽鬼」

「子どもの見えざる相手が何か確かめる、それだけだ。心配するな他にどうしようとは思ってはいない」

幽鬼はゆっくりとサニーの前に腰を下ろした。積み木に夢中になっていたサニーも幽鬼を見る。樊瑞は力の波動を脳細胞の奥深くにチリチリとした感覚で感じ取った。

「サニーはまだ2歳の子だ、あまり無理はするな」

「わかっている、こうした子どもが一番難しい、気が散るから喋りかけないでくれ」

サニーの赤い瞳を覗き込みながら幽鬼は精神を集中させる。子どもの負担にならないよう細心の注意を払いながら目の前にある無垢な精神を手繰り寄せ、自分のチャンネルとをつなぎとめる。それはいつも彼が行う太い線とは異なる細い細い糸のようなもの。精神の扉がその細い糸を伝わるようにゆっくりと開かれる。

オブラードのような薄い表層を丁寧にめくりとる。
そこには煩雑な子どもの情報の波があった。

幽鬼はあえてそれは見ないままはじいた。彼は子どもの過去やとりまく環境から生まれた感情を読み取らないと決めていた。さらに精神を集中させる。

あふれ出す情報の最奥に光が見える。赤い光だ。
その光をさらに覗き込む、強い光なのにやけに温かい。


「・・・!!!っつう!」

とたん幽鬼の頭に痛みがはしった。

「どうした!?」

手を頭にあてる幽鬼に樊瑞は身を乗り出して覗き込む。一呼吸置いて「大丈夫だ」と幽鬼は薄く笑ってみせる。目の前にいるサニーはきょとんとした表情で赤い瞳をパチパチさせていた。そして幽鬼のあたまを撫でた。

「はは・・・ありがとうよお嬢ちゃん」

「幽鬼、何か見えたのか?いったいなんだ」

「ふふ・・・樊瑞知りたいのか?」

「あたりまえだ」

幽鬼は肩を大きく揺すって笑い出した。その様子に樊瑞は憮然となる。

「なぁに我々が心配するようなことじゃなかったことだ・・・くくくく」

「?・・・どういうことだ?」

「邪魔したなお嬢ちゃん」

樊瑞の問いかけに答えるでもなく幽鬼は部屋を出た。
そして屋敷を出ようとしたが樊瑞に止められる。

「説明しろ、結局なんだったのだ」

「アルベルトだ」

「なに?」

「あの子どもが見ていたもの、いや、感じ取っていたといった方がいいかもしれん。それがアルベルトだったということだ」

「ア・・・アルベルト?」

「そうだ、どうやらあの親子はテレパシーで繋がっているらしい。それもかなり強烈なやつだ。確か奴はいま任務で北京にいるだろう?驚いた事に地球の裏側にいるはずなのに娘と精神下で強く結びついている。まるで切り離せないへその緒のように」

「へその緒・・・」

幽鬼は一息吐いて唖然としている樊瑞を見る。

「ただし、チャンネル接続の権利は父親であるアルベルトが持っている。自我が芽生え始めたもののまだ精神的に不安定で未熟であるから子ども側は常にオープンの状態であっても父親に意図的にリンクは行えない、さらに親からのリンクを受けても思考や感情までは伝わるまい。まぁ「気配」としては感じ取っていたようだが」

「そ・・・そうか・・・」

「そしてオープンといっても対象は親子間のみだ、第三者の思考、感情を読み取るような不安要素は今のところは無い。まぁだからこそあれだけ強い結びつきなのだろう。くくくくっ・・・うっかり「おとうさん」に見つかって叱られてしまったぞ」

頭を擦る、実のところまだ頭痛がしている。随分と強烈な「一撃」だった。任務から戻ってきたアルベルトに何か言われるだろうか、心の奥で笑ってみせる。

樊瑞まだ唖然としている。

「さてはお主うらやましいのではないのか?」

幽鬼が人の悪そうな顔で口が開いたままの樊瑞を覗き込む。
樊瑞は我に返り後ろにたじろいだ。

「な・・・何を言うか!さてはワシを読みおったな!」

自分で「図星です」と言っていることにはまったく気づいてないらしい。





「読むまでもない、お主の顔に書いてあるぞぉ?」



幽鬼は腹を抱えて笑い出した。








END








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アルベルトの受難






「では、アルベルトお主に任せるぞ」

そう言うと樊瑞は趣味の悪いピンク色のマントを大げさに翻した。
マントの中から現れたのは4歳になる自分の娘。
「パパ」といって笑顔で自分に飛びついてくる。

「な?なにぃ?」

樊瑞の姿は既に無い。

「アルベルト殿、これが今回の任務です、よろしく頼みましたぞ」

いけすかない策士に手渡された指令書。

「ああ、そうそう、他の方々は全員出払っておりますので」

白羽扇を優雅にあおいで策士は消える。

「な・・・ちょっと待て」

事体が飲み込めない。呼ばれて来て見ていきなりだった。
指令書の封を開け、中身を確かめる。


『本日開園のBF遊園地にて1日時間を潰すこと』

『追伸----ビッグ・ファイアのご意志です』

血の気が引く音がした、そして足にしがみ付く何かを見ればやはり自分の娘。

「おのれ謀ったなーーーー!!!!」

アルベルトの叫びは誰もいないBF団本部によくこだました。






当然というべきか屋敷に戻ってもイワンはいなかった。
一枚の置手紙はまるで急いで書き殴ったような字で

「緊急の指令のため明日まで戻れません」

とだけあった。アルベルトのこめかみに筋が浮く。
これでは娘を預けることができなくなってしまった。
大いなる悪意が渦巻いているとしか感じられなかった。
そして今だ自分の足にしがみ付くのは自分の娘。

一回大きく深呼吸するのがせいぜいだった。

誰でもいい、衝撃波付きのグウで粉みじんに殴ってやりたい。






アルベルトは今遊園地にいる。
ピンクやイエローやブルーの色が飛び交い、キャラクターの着ぐるみが愛嬌を振りまく。
甘いお菓子の匂いが漂い、調子のいいBGMが流れる、そこはファンシーな世界。
ファンシーの中にいる裏社会から抜け出してきたような黒スーツに身を包んだ男。
その男の長い足にしがみついている愛らしい巻き毛の幼い女の子。
そういった図だった。

「サニー、いいかげん離せ」

「や」

十傑集の要望は速攻で、そして一言で却下されてしまった。
アルベルトは冷静になろうと務める。そう懸命に。

「サニー、いい子だから離しなさい」

「サニーあれにのりたい」

却下どころか無視されて、さらに要望まで突きつけられる。
そんな彼は確かに十傑集『衝撃のアルベルト』、そう間違いなかった。

喉元まで出そうになる何かを押さえつけ娘が指差す方を見る。
でかいティーカップが意味不明なことにクルクルと回っている。
さらによくわからないのがそのティーカップに人間が乗って一緒にクルクル回っている。

「他のにしろ」

「や」

娘は自分以上に容赦なかった。


サニーはクルクル回っている。
アルベルトもクルクル回っている。
回るつもりは無かったが「小さいお子さんは親御さんと一緒に乗ってくださいね」とふざけた格好の案内係に笑顔で言われたからだ。だから、だからこうしてクルクル回っている。


アルベルトにとって恐ろしく長い10分だった。
少し乱れた髪を丁寧にかき上げる。正直心も乱れていたがそれは直せそうに無い。

「サニーつぎはあれにのりたい」

見たくは無かったが娘が指さす方を見る。
白い馬が列をなして回っている。
それは延々と終わりのときが無いかのように回りつづけている。
人間の思考を破綻させる拷問器具にしか見えない。


サニーはお馬さんに乗って回っている。
アルベルトもお馬さんに乗って回っている。
回るつもりは無かったが「小さいお子さんは(以下略」ね」ということで回っている。

10分の拷問に耐えた。
我ながら「うむ、さすがは『衝撃のアルベルト』」と褒めてやりたかった。
しかしもう1分長ければどうなっていたか、考えるのはやめた。

娘は相変わらず自分の足にしがみ付いて周囲を物色している。
もう回るのは遠慮して欲しい、父の人間性を殺す気か。そう心の中で叫ぶ。

その叫びが伝わったのか娘は自分の足から手を離し駆けて行く。
甘ったるい香りをさせているクレープの屋台前で立ち止まる。
クレープが作られるのをジーっと眺めている。
そして指を咥えてアルベルトを眺める、ジーっと。

娘は意思を伝えるのにずいぶんと高いテクニックを使う。
十傑集でもこれだけの高度なテクニックを使いこなす奴は、いない。


アルベルトは陥落した。
難攻不落の堅固な造りの城は外堀から埋められて脆くも崩れ去った。
十傑集『衝撃のアルベルト』ができることといえば白旗を振る事だけだった。

サニーの手には「戦利品」が握られている。
戦利品は甘ったるいチョコレートの香りを放ち、食べられている。
それは勝者だけが味わえる勝利の味。

そしてみじめな敗者はベンチに腰を落とし肩も落として敗北感にさいなまれている。
ただただ今日という日が一刻も早く過ぎ去ることをひたすら祈る。

「パパあーんして」

横に座る娘はあろうことか敗者に勝利の味を味合わせてやろうという。
度量の大きさに涙してやりたいところだったが生憎アルベルトは甘いものは嫌いだった。

「いらん、お前が全部食べろ」

そんな見た目にも味にもぐちゃぐちゃな物を口にはできない。
いいか、そんな物は食べ物なんかではない。
だいたいチョコレートがあふれてたれている。ありえない。
しかし娘はそのぐちゃぐちゃを食べろと言う。そう涙を潤ませて。

反則以外の何ものでもなかった。
これなら栓抜きで頭を殴られた方が遥かに増しだった。
娘はいつからこんな凶悪きわまりない反則技を使うようになったのか。
誰だ親は。ああ、自分か。
いや樊瑞にも責任があるはずだ、出て来い樊瑞。貴様が全部悪い。

アルベルトは見えない何かと戦っていた。
しかし負けたらしい。責任転嫁が仇となったことに気づかなかったのが敗因だった。

アルベルトは汚い物を摘むかのように指をクレープに差し出す。

「だめ、あーん」

娘はニッコリ微笑んでアルベルトの口元にそのぐちゃぐちゃを差し出す。
選択の余地を一切与えない無慈悲な笑顔だった。






帰ったらまず誰を血祭りにあげてやろうか、樊瑞か、孔明か。
そして十傑集はだいたい多すぎる、自分ひとりでいい。後は殺そう。

そう決心するアルベルトの足には娘がくっついている。
ついでを言えばアルベルトの口元にはチョコレートも少しくっついている。





一日はまだ始まったばかりだった。







END








異端の男






ヒィッツカラルドという男は十傑集のなかでも「異端」の部類に入る。
もうひとりの「異端」にレッドがいるが、ヒィッツカラルドとはまた近い様でその本質は大きく異なると言っていい。

ヒィッツカラルドが、彼がどう「異端」なのか。それは殺傷事を快楽とする本人の嗜好性が強いところである。必要以上に破壊し、必要以上に殺傷する。まるでそれが娯楽のように愉快に楽しそうに。そしてそれを隠さない、彼の悪い癖なのか自慢したがる。

その彼の「歪んだ人格」の現れともいえる「悪癖」は彼本人の「切れすぎる」能力に起因するのかもしれないし、悪癖ありきの能力かもしれない。それがどちらが最初なのかはわからない。

また彼自身自分の「切れすぎる」能力になかば取り憑かれたような節もみうけられる。彼にはもう一つ能力があったが彼がそれを使うのをほとんど見たことが無い、もっぱら「切れすぎる」能力ばかりを使うからだ。

同僚であり同胞である他の十傑集からは暗に日に彼は蔑まれている。確かに、BF団そして十傑集は彼が好む殺傷事を気の遠くなるほど積み重ねてきたことでその勢力を拡大し、さらに目的を果たそうとしている。しかし能力は高くとも、彼自身の鼻につく性格とその悪癖を好む人間が意外と少ないからだった。そして彼自身はそれをどうも思ってもいない。彼に言わせれば

「他の連中も同じようなものだ」

ということらしい。その言葉に眉を寄せる同僚たちを彼は鼻で笑う。





「お主・・・またやらかしたな・・・部隊の全滅まで任務に含まれてはおらぬかったはずだ」

「それは「ついで」だ、うるさかったから全部スッパリ切ってやったのだ。任務は完遂、結果は同じだ。孔明も満足してるだろ、どうせ奴のこと、私のやることくらいお見通しで任務を与えているはずだからな、くくくく」

「ヒィッツカラルド・・・どうもお主は危うい奴だな・・・」

「危うい?私が?ふははははは、そりゃあなんとも嬉しい褒め言葉だ、くふふふふ」

樊瑞は言葉の意味を深く受け取っていない彼に溜息をもらす。
壊れた仕掛け人形のように肩を揺すって、端が派手に跳ねたブラウンの髪を揺らしながらヒィッツカラルドは笑っている。

孔明への任務報告のついでとばかりにヒィッツカラルドは帰り際に立ち寄った十傑集リーダーの樊瑞の執務室で悠然とソファアに腰掛けてお茶を飲んでいた。彼の「仕事道具」である白い指を優雅にティーカップの持ち手に添え、小指をツンと突きたててオレンジペコーの香りを楽しむ。

彼の指にはささくれひとつない、爪は常に一定の長さで綺麗にカットされ、神経質ともいえるほど手入れが行き届いている。

執務室のドアがノックされる。小さな声で「サニーです」と言うと樊瑞はドアに手をかざす、するとドアが消え巻き髪の小さな女の子が現れた。誰からもらったのか赤いポシェットを斜めにかけている。

「サニー、まだお仕事があるからもう少し待っていなさい」

ちょこちょこと執務室に入ってきた幼女に樊瑞は穏やかな笑みをむける。

「ふむ、これが『衝撃のアルベルト』の娘か」

ティーカップをテーブルに置き、初めて見る自分の顔を不思議そうに見つめる小さな女の子の瞳を覗き込む。親と一緒の赤い瞳。他はお世辞にも「あの」父親に似ているところは見受けられない、ヒィッツカラルド特有の黒目のない白眼が気になるのか赤い瞳をくりくりさせて反対に覗き込んでくる。

「・・・こんにちわ」

「こんにちわ、お嬢ちゃん」

「さ、サニーこっちへ来なさい」

樊瑞の言葉が耳に入らないのかヒィッツカラルドの側に立ってじっと動かない。

「私の方がいいのかね?」

ヒィッツカラルドはサニーを抱き上げて膝に座らせた。

「おい・・・何をする」

「お嬢ちゃんは人が真っ二つになるところを見たことがあるかい?凄いのだよ?血が噴水みたいにいっぱい出てくる。そして私がこの手で、この指でみーんな真っ二つだ」

白い指先をサニーの目の前にちらつかせながら彼はニヤニヤと下卑た笑みを見せる。
サニーは言う意味がわからないのか不思議そうな顔でその白い指を見ていた。

「貴様!子どもにくだらぬことを吹き込むな!」

樊瑞の恫喝をまったく受け付けることもなくヒィッツカラルドは続ける。

「一度見た方がいい、お人形遊びなんかよりずっと楽しい。そうだ今度私と一緒に見に行くかね?お嬢ちゃんの特等席をご用意しよう」

「ええい!馬鹿者が!サニー!来るんだ」

ひったくるようにヒィッツカラルドの膝の上からサニーを抱き上げる。

「残念」

「まったく、貴様は・・・サニーに近づくな。そしてその指で・・・触るんじゃない」

「おやおや、随分と彼女にご執心じゃないか魔王」

白眼を大きく歪めてオレンジペコーを最後まで飲み干す。そしてソファから立ち上がり胸を張って気取ったように襟を正す。サニーを見ると以前不思議そうな顔で自分の指を眺めていた。彼はニヤリと白い歯を剥いて笑い「ごちそうさま」と一言、樊瑞の執務室から出ていった。


両手をスーツのズボンのポケットに手を入れて鼻歌交じりに大回廊を歩く。
後ろからパタパタと小さな足音。こちらに駆け寄ってくるのがわかる。後ろを振り向くとサニーが赤いポシェットをゆらしてこちらに向っていた。

「どうしたのかね、お嬢ちゃん。特等席のご予約かい?」

彼は相変わらず下卑た笑みを浮かべてサニーを見る。
サニーはヒィッツカラルドの前に立つと赤いポシェットに手を入れる。
そしてゴソゴソと何かを探り始めた。

「?」

ポシェットから取り出されたのはいわゆる絆創膏。何のキャラクターなのかはわからないがイラストが描かれており、子どもが好むような色の水玉模様だった。サニーは小さな手でそれを覆い紙から取り出す、粘着で何度も指に張り付かせた。

サニーが自分に手を差し出すので思わず自分もポケットから右手をだして前に差し出す。サニーはヒィッツカラルドのその大きく白い手を掴むとその中指に絆創膏を巻きつけ始めた。なんとなくされるがまま彼はその様子を眺める。

「いたいいたいがとんでいくの」

「・・・・・・?」

さらにポシェットを探り同じ柄の絆創膏をふたつ取り出す。

「サニーあとひとつもってるからふたつあげる」

それをヒィッツカラルドは受け取った。
サニーは再び樊瑞の執務室へと駆けていく。
彼の手には少女からもらった水玉模様のふたつの絆創膏。

少しだけ白眼を広げ眉を上げる。
傷も無ければ血もでてない、そして当然痛くも無い。
何故か巻きつけられた絆創膏。
汚い巻き付け方、その柄はもちろん彼の趣味じゃない。
綺麗に手入れされた指には似合わない。
しかしそれを取り去ろうとはしなかった。


「ふむ」

彼はもらったふたつをスーツの胸ポケットにしまいこむと再び鼻歌交じりで歩き出した。






それからも飽きる事無くヒィッツカラルドは噴水を上げて笑っている。
同僚からの冷たい視線も心地良く、彼は鼻歌を歌いながら「娯楽」を楽しむ。
そして自分の悪癖を笑いながらご披露する。



しかしあの日からヒィッツカラルドは少女の前では「悪癖」は披露しなくなった。そして彼のポケットにはいつも少女からもらった水玉模様のふたつの絆創膏が入っている。


彼が取り出し忘れているのか、それともいつもそこに入れているのかはわからない。それは彼の悪癖が「切れすぎる」能力に起因するかそうでないかわからないように、やはりわからないことだった。





END








poison and candy






BF団本部。

十傑集マスク・ザ・レッドは中庭で同僚であるセルバンテスが幼子を抱きかかえ笑っているのを見る。テーブル付きの椅子に腰掛けて2人とも声を上げて笑っている。

彼は、レッドはヒィッツカラルドと同様に十傑集内では「異端」ではあった。しかしその本質はまったく異なる。やはり彼も殺傷事を楽しむ部類の人間だった、彼の場合それを自分自身の喜びであり誇りにすら感じている。また染み付いた習慣のように人を殺すのに迷いが無い。朝起きて顔を洗うように喉を裂いて、歯を磨くように切り刻む。彼は容赦が無い、そして女、子ども、関係なく無慈悲だった。ビッグ・ファイアの名の下においては他の十傑もやはり同様に無慈悲である、しかし無慈悲の十傑の中でも完璧な無慈悲と言っていい。レッドはいわゆる「生粋」だった。


レッドは2人に近づきセルバンテスの向い側にどっかりと座る。

「お仕事終わったのかね、ご苦労様」

「ああ」

「どうした?何か用かね」

「私がここにいてはいかぬのか?」

「いいや、どうぞどうぞ」

セルバンテスは子どもに相変わらず笑顔をむけている。

「いいよね、子どもは」

「好かぬ」

「そうかい?」

「無力なくせに庇護される、とるに足らないつまらぬ生き物だ」

「可愛いじゃないか」

「ふん、可愛いなどという形容は相手を惑わし油断させるだけのものでしかない」

「レッド君らしい発想だ」

「それに「可愛い」などと思うということはそいつが自分より劣っていると感じるからこそだ。強い物に対して「可愛い」などとは思わぬだろう。下に見て蔑んでいる証拠だ、どうだ、否定できまい」

「やれやれ・・・」

「セルバンテス、貴様はなぜ子どもが好きなのだ。ああ、お得意の『眩惑』とやらが子ども相手ならばたやすいものだからだろう?何もわかっていない愚か者だから口先三寸であっさり騙せる」

「レッド君に言わせれば確かにそうかもしれんね」

肩をすくめてセルバンテスは笑う。

「その子どもは衝撃の娘というだけでここにいるのだろう?ふん、大そうなご身分だ。ろくな能力もないくせに穀潰しめ」

「いいんだよね~サニーちゃんは能力なんか無くったって笑っててくれればね~」

「くだらん」

鼻を鳴らして2人を見下す。
人1人殺せもしない子ども、それをあやす大人。くだらない。
そして自分をここまで「完璧に育て上げた」大人たちは素晴らしい。
自分に血をすする喜びを与えてくれ、誇りを教えてくれた、感謝すらしている。

セルバンテスのクフィーヤの下から発信音が鳴った。

「緊急任務か、困ったな、他は出払っててサニーちゃんを預ける者がいない」

「私が見てやってもよいが?」

レッドの意味ありげな笑みにセルバンテスはいぶかしむ。
目元は彼のコードネームの由来でもある赤いマスクで覆われてはいるが面相は端整といえる。それを少し歪ませるように薄く笑っている。

「子どもは嫌いじゃなかったのかね」

「嫌いだ、でも見ていてやるよ。なに、殺しはしない」

セルバンテスは躊躇したが任務に赴かなければならない、一番預けたくない相手だが「頼んだよ」の一言を言い残し白い旋風と化して消えた。



自分の膝下程度の大きさの子どもはテーブルの上に置かれてセルバンテスにもらったのか飴玉を舐めている。

私が貴様の歳の頃には毒を舐めさせられていたものだ。
おかげでほとんど毒など効かない便利な体になったのだ。
それを貴様は甘い飴玉か、馬鹿が。

ビッグ・ファイアに忠誠と命を捧げ、破壊と殺戮をもたらす者となる、貴様の父親もそう考えて娘をここに置いているはずだ。そしてだから貴様はここにいるのだ。
きょとんとした顔で自分を見る子ども。何もわかっちゃいない馬鹿面だ。レッドはそう思う。

くないを1本取り出す。
先端は鋭く尖り、赤黒い色に染まっている。
レッドは子どもの手をとり握らせる。

「ほお、似合うじゃないか、さすが「衝撃の子」といったところか?くはははははっ」

腹をそらせ高く声を上げて笑う。
さっきの「仕事」で敵の首を貫いたくないだ。
何人かは知らない、とりあえずたくさんだったかもしれない。
それをこの子どもは何も知らないでおもちゃのように握っている。
なんとも愉快だ。

「いいか?突くだけなら確実に急所を狙え。そして突いてから捻れば空気が入って敵は静かに死ぬ、覚えておけ、そしてそれを体に刻み込め」

子どもの反応を無視してレッドはさらに目の前に様ざまな武器を広げる。
武器といってもそれは「暗器」。戦いに振るうと同時に命を闇に沈める武器。
手裏剣は一種類じゃない、そして奇妙に捻じ曲がった鋲もあれば円月形の刃もある。
そしてそのいずれも赤黒く染まっている。

「ひとつ好きなのを選べ、貴様にくれてやろう」

レッドは楽しいと思う。自分もこうして自分の武器を決めたのだ。
子どもはくないを握ったまま「暗器」を物色している。

いいぞ、いいぞぅ、そうだ、選べ。
貴様の道がそこにある。喜びと誇りに満ちた道だ。
何もしらない愚かな貴様にこの私が示してやろう。


しかし子どもは何も選ぶ事はなかった。
そしてそれは突然だった、子どもの赤い瞳が光ったかと思うと目の前に飴玉が現れた。
何も存在していない空間からである。
レッドは目を見張った。
外部からの力の脈動はまったく感じられなかった。
それどころか明らかに子どもからその脈動が感じられたからだ。
子どもは自分の力にまったく実感が無いのか飴玉を不思議そうに見ている。

やはりこの子どもは父親の血を受け継いでいる「能力者」だ。
しかもなんだこの力は、まるで魔法だ。
この子どもにこんな力があるなどと知らないし聞いていない。
ということはあの父親も他の連中も、そして孔明も知らないのではないのか?
自分が第一発見者だ。
これはいい。
面白いことになってきた。


レッドの端整な顔は笑みで歪んでいく。


孔明か樊瑞・・・いや孔明に今すぐこの事を伝えれば専用の教育を施すに違いない。
今から能力を鍛え上げればさぞかし強力な力を扱えるだろう。
新たな戦力の誕生だ、しかも有望株だ。
将来は父親と同じく十傑集に連なってビッグ・ファイアの名の下に命を刈るのだ。


レッドの端整な顔は裂くような笑みでどんどん歪んでいく。


そして自分のように幼子の頃から仕込むのだ。
飴玉を取り上げて毒を舐めさせよう。
刃を持たせ振るわせよう。
血飛沫をあびてその味を覚えさせよう。
肉を裂く喜びを体に刻みこませよう。
そうだ、闇に産声をあげさせるのだ。

喜びと誇りに体が震え上がる、最高だ。

そうだ、最高だ。


最高・・・だ。



レッドは体は燃えるように熱いのにすでに冷め切っていた瞳を子どもに向ける。
取るに足らないつまならい生き物だ。
何も知らない愚か者だ。
そしてその愚か者は赤黒いくないを握り締めたまま飴玉を舐めていた。


自分が舐めたかった甘い飴玉を・・・舐めていた。













それから半年後、サニーは孔明が設けた能力者養成の特別カリキュラムを1日15分程度受けることになった。それは先日孔明自身がサニーの能力の発現を確認したからだった。


「しかし衝撃の娘にあのような力があったとは、やはり血か」

カワラザキはひとりごちる。
その言葉に樊瑞はいつになく複雑な表情をつくり唸る。
セルバンテスはいつもの笑みも浮かべず酷く冷静だった。
アルベルトは眉ひとつ動かさず無表情である。

「ああレッド、知っていたかサニーには能力があるらしい」

カワラザキの言葉をレッドは興味無げに「知らんな」の一言で流した。



そして闇に産声を上げた者は闇に消えていった。








END








ウェディングベル






「サニーちゃんは私のお嫁さんになるんだもんねぇ~」

「ふざけるな貴様、サニーはやらん」


相変わらずと言っていいのか毎度ばかばかしいやりとりがそこにはあった。
同僚たちの、そのばかばかしいやりとりを完全無視してアルベルトはコーヒーを飲む。
まだ幼い子どもを挟んでセルバンテスと樊瑞、2人のばかな大人がばかを言っている。
付き合いきれん。
アルベルトは再びコーヒーに口をつける。

「だってこの前サニーちゃんと約束したんだ、大きくなったら私のお嫁さんになるってね」

「貴様私の目が届かないところでよくも・・・サニーダメだぞこんな男の嫁になっては。私の所にずっといなさい」

どっちもどっちだが樊瑞に娘を預けたのを少し後悔したのは確かだ。
アルベルトはこっそり眉をよせる。

「私のお嫁さんになったら楽しいよ~お金持ちだからお洋服いっぱい買ってあげるし、お菓子も食べ放題だよ。あーでもサニーちゃんが大人になるまで待ちきれないなぁ、そうだ、今私のお嫁さんになってくれるかい?綺麗なウエディングドレスが着れるよ?」

セルバンテス、お前どこまで本気で言っているのか知らんがそれは犯罪だ。確かにBF団は犯罪集団だ、だがその犯罪だけは本当に犯罪だ。

「待て、サニー!今なるのならいっそ私の嫁になりなさい」

樊瑞、貴様もだ、少しはまともな奴だと思っていたのだが物事の分別すら付かぬ男だったのか。

アルベルトは知らずコーヒーカップを持つ右腕に衝撃波を溜め込む。
コーヒーはさざなみを立て始めた。


「じゃあサニーちゃんに決めてもらおうじゃないか。サニーちゃんは私の方がいいよね?」
「いいやサニーは私の方がいいに決まっている、そうだろう?サニー」

2人に覗き込まれる幼い少女は目をぱちくりさせている。
そして満面の笑顔になって元気良くはっきりと答えた。


「サニーはパパのおよめさんになるの!」


アルベルトは口に含んでいたコーヒーを全て噴きだした。
娘の言葉は十傑集「衝撃のアルベルト」を粉砕する強烈なボディブローだった。


「あるべると君?どういうことなのかね?」
「アルベルトお主・・・見損なったぞ・・・」

目の前に迫り来る白い影とピンクの影。
普段のアルベルトなら十傑集総がかりでも望むところだったがボディーブローの余韻深く今は呼吸をするのもままならない。

「パパのおよめさんになるの!」

娘よ、頼むから黙っていてくれ、アルベルトは咳き込みながら心の中で叫ぶ。


「いくら友人の君でもゆるさないよ?」
「人の道を踏み外すとは・・・」

「ええい!馬鹿か貴様ら!!!!」


しかしアルベルトの頭にふとよぎる。いや、よぎってしまった。

娘が
成長して
美しいひとりの女性になって
白いウェディングドレスを着て

自分の横に立つ

そしてふっくらとしたピンク色の唇で
自分に愛の誓いを立てる


その姿は・・・亡き妻によく似た・・・


「うーあーあーあーあーあーあー!!!」

アルベルトは首を横にブンブン振りながら絶叫している。
何かを懸命に吹き飛ばそうとしているらしい。
顔は必死と言っていい形相。そして赤い。


「うっわー想像してるよこの人」
「最低だぞ!アルベルト!!」
「パパのおよめさんになるの!」






BF団にウエディングベルが鳴り響いていた





END








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