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BF団本部で最初の患者は十常寺だった。


唯でさえ十傑集という非常識な存在な上に、死んでも死なない人外レベルの彼がなんと『風邪』を引いてしまったのである。

「はっ!冗談だろう?」

あのタヌキが?と言わんばかりの顔でレッドは『あの十常寺が風邪を引いた』事実を笑った。しかし樊瑞は苦虫を噛み潰したかのような顔で

「サニーが3日も十常寺の私邸に泊り込み、それはそれは甲斐甲斐しく看病したそうだ」

下級エージェントが奴の身の回りの世話をするから大丈夫だ、と言っても訊かずサニーは「まぁ、十常寺のおじ様が?大変!」と樊瑞の静止を振り切って十常寺の私邸に向かってしまった。サニーは熱を出す十常寺に氷嚢を取り替えてやったり、シーツを取り替えてやったり、特性のお粥を作ったり・・・

「おまけに奴に何をしたと思う?」

「裸踊りでも披露したか」

今の樊瑞に冗談は通用しない。
レッドは魔王の一撃を頭に喰らう。

「『あーん』だ、『あーーーーーん』っっっっっ」

うめく様にそう語る樊瑞の目は血走っている。
十常寺はというとサニーにお粥を『あーん』してもらった上に献身的な看病が功を奏したのか今はすっかり完治。サニーがいかに自分に尽くしてくれたか他の連中に言いまわっているらしい。

「サニーはどこへ出しても恥ずかしくない、それは素晴らしい嫁になる・・・だと」

「ふーん、何が『あーん』だかな」

レッドはどうでもいい話に最速飽きてしまい口にピーナッツチョコを放り込んだ。






しかしあの十常寺ですら引いてしまうような風邪である。

次の患者は怒鬼だった。ともかくそれに騒いだのは血風連で「我らの怒鬼様がぁ!」「うわぁー!一大事でござる」「いやぁ~拙者の怒鬼様が死んじゃう~!」と蜂の巣を突付いたような騒動。熱が余計に悪化する騒ぎの中、怒鬼は気合で風邪を治そうと試みるが十常寺ですら引いた風邪。

「まぁ!怒鬼様がお屋敷で寝込んでしまわれたのですか?大変!」

「サニー!待ちなさい!」

サニーが帰ってくるまでの三日間、樊瑞は一睡もできない。我が娘に等しいサニーがあろう事か一つ屋根の下で男と2人。ストライクゾーンを大きく外れた十常寺ならまだしも、インコースギリギリの怒鬼。そんなきわどい危険球は渾身の力で場外ホームランにしてやる!と樊瑞の脳内ではバッターボックスでホームラン宣言を彼は行った。

「サニー様のお陰で我らの怒鬼様は快方に向かわれました。ああ、なんと感謝申し上げてよいのやら」

「怒鬼様に尽くされるサニー様、これがまた実にお似合いで怒鬼様の伴侶として相応しいお方かもしれませぬなぁ。何よりも『あーん』される様に近い将来を見申した」

「サニー様なれば拙者の怒鬼様をあげちゃってもいいかも」

血風連の言葉に三球三振の樊瑞。
バットを膝で叩き折り、歯軋りするのが精一杯。





やはり寄る年波に勝てないのか、今度はカワラザキが風邪をひいた。一緒の屋敷に暮らす幽鬼が仕事の合間を見つけては献身的な看病にあたっていたがサニーもお手伝い。

「知りませんでした、幽鬼様がお粥をお作りになられるなんて」

「ん?ふふ・・・まぁな、これは爺様からの受け売りだ」

幼い頃風邪をひけばカワラザキ特製のお粥の世話になった。

「お嬢ちゃんにも作り方を教えてやろうか?」

「はい、是非」

中睦まじくキッチンで並ぶ2人を遠くベッドから見つめるカワラザキ。
ありえない未来でも無いかもしれん、と目を細め優しく見守っていた。

しかしバッターボックスの樊瑞は「あんなど真ん中の『直球』にこの私が手を出せぬとは!!」と見過ごしの三振。2本目のバットをへし折り次の打席を待った。






「ヒィッツカラルド、お主はよもや風邪をひくつもりではなかろうな?」

「つもりとはどういうことだ、意味が分からん」

大回廊の中庭を望めるテラスでお茶をしていたら、いきなり彼の白いネクタイを引っ掴み迫る樊瑞。何故か手には一本のバット。

「お主がひけば私の権限で下級エージェントを30名ほど寄越してやるから安心しろ。足りぬのであれば100名でも200名でも」

「・・・・・・・・・・・・・・」

盛大に眉を寄せ嫌~な表情をヒィッツカラルドは作ってみせる。自分の屋敷にむさい男が鮨詰め、寝込む自分の世話をするなど彼にとって耐え難い拷問に等しい。

「なんだ不満か?」

「貴様の曇った目には、これが満足している顔に見えるのかっ」

「あ、ヒィッツカラルド様」

何も知らないサニーが笑顔で近寄ってきた。

「風邪が流行っていますが、ヒィッツカラルド様は大丈夫ですか?」

「ん?心配してくれるのかい、嬉しいね。そうだな・・・もしかしたら熱があるかもしれないなぁ。お嬢ちゃん診てくれないか?」

そう言う彼はネクタイを掴む樊瑞の手を払いのけ、身体を屈めると当然のようにサニーに顔を近づける。

「熱が?まぁ大変」

サニーは前髪を上げてヒィッツカラルドの額に優しく自分の額を押し当てた。真剣に熱の具合を探るサニーと樊瑞に歯を見せ付けて笑うヒィッツカラルド。樊瑞の手にあるバットは『変化球』にかすりもせず、メキリッと音を立てて彼の手で握りつぶされてしまった。







「大丈夫ですか?セルバンテスのおじ様」

「う~んう~んさにぃーちゃん~、おじ様もうダメかも~。でもぉさにぃーちゃんが『あーん』してくれたらきっとすーぐ治ると思うんだけどなぁ~」

ベッドの上でいつもより増してサニーに甘ったれた声でおねだりするナマズおやじ。サニーはその言葉を素直に受け取ると大きな林檎を小さな手に持ち、それを果物ナイフで丁寧に剥いて

「はい、おじ様あ~ん」

「あ~~~~~~ん」

普段はやや釣りあがった目尻をすっかり下げきって、セルバンテスはウサギさんカットされた林檎を頬張った。

「おじ様、早く良くなってくださいね」

「もちろんだとも~~。よーし治ったらおじ様はさにぃーちゃんをお嫁さんにもらっちゃうぞ☆」

「まぁ、おじ様ったら」

「はははははは」








「で、最近姿を見ないがセルバンテスの風邪は治ったのか?」

性質の悪い風邪が流行っていて、サニーがあちこちに走り回っているとの噂をアルベルトと2人で話をしていた残月は、言葉を紫煙とともに継いだ。

「あの馬鹿、樊瑞に仮病だとあっさり見破られて全治三週間の身だ」

「・・・・・・・・・・・・(やはりな)」

『魔球を投げるな』とかなんとか意味不明を叫びながらバットでタコ殴りらしいがアルベルトにはどうでもいいこと。しかし彼もまた樊瑞同様この状況を喜んではいない。

「サニーの奴め、世話するのは結構だがわけのわからん風邪をもらったらどうする」

樊瑞とは違うこの視点は健全な父親ともいえる。

「娘に感染させてみろ、誰であろうと生まれてきたことをこの私が後悔させてやるわ」

健全かもしれないが剣呑だ。
葉巻を指先で揉み潰しその場から立ち去るアルベルトの背中を見送り、一人残った残月は今一度紫煙を吐く。彼は一向に風邪をひく気配が無い。今回ばかりはそれを少し残念に思っていた。






自分には関係の無いことだと高をくくっていた男が風邪をひいた。

「うう・・・」

体がだるい、頭が痛い、いやこれは気のせいだと自分に言い聞かせて一週間粘ってみたが、命の鐘お墨付きの風邪ウィルス。ついに彼をベッドの上へと連行してしまった。

「レッド様、お加減はいかがですか?」

真っ先に駆けつけて来たサニーが、辛そうにベッドで寝込むレッドを覗き込む。

「うるさい、あっちへ行け」

ちなみにいつものマフラーもマスクも見に付けてはいない、つんつんの髪は本人の体調バロメーターなのだろうか今はすっかり降りきっている。それに前髪も目を隠すほどに降りきった寝巻き姿はまるで別人の様だ。

「今氷をお取替えします」

「あっちへ行けと言っている、私に構うなう鬱陶しい」

そうは言うが力ない声。サニーはレッドの頭に乗っている氷嚢を新しいものに取替え、「お粥を作っておきますね」と邪魔にならないよう寝室から出て行った。

レッドが眠りから覚めたのはそれから二時間後、気づけばサニーが大人しくベッドの側で自分を見守っていた。頭に乗っている氷嚢はあれからまた新しいものに変えられていたらしい、頭を軽く起こせば氷の塊が中で鳴った。

「お口に合うかどうかわかりませんが・・・」

差し出されたのは湯気が立つお粥。
いらん、と突っぱねたいところだが腹が空いているのは確かだ。それに、風邪をひいて食欲が落ちているはずなのに随分と美味そうに見える。

「食べてやるありがたく思え」

「はい、ありがとうございます」

どうしてこうも素直なのだか、と呆れながらレッドはサニーお手製のお粥を口にした。薄味だが鶏の出汁のお陰か物足りなさは無い、溶き卵は自分好みのやや半熟、ちょっとだけかけられたポン酢が食欲を増してくれる。正直、かなり美味い。体調を崩せば何を混ぜ込んだのか分からない忍者食で無理やり済ませてきたレッドにとってそれは初めての味、消えかかりそうな幼い頃からの記憶をどんなに手繰り寄せても存在しない味だった。

「・・・・・・・・・・・・・」

ふと横を見ればサニーが林檎を剥いている。
まつげが長い、とその時初めて気づいた。

「何か?」

「べ、別になんでもない」

そしてお粥を米粒ひとつ残さず平らげ、久方ぶりの満足を味わう。

「レッド様、はい」

屈託の無い笑顔でサニーはウサギさんにカットした林檎を彼の口元に差し出してくる。

レッドは少し躊躇ったが思いっきり大きく口を開け

「ふん」

サニーからの林檎を受け入れた。







「随分と治りが早かったではないか」

「早くて悪いか」

樊瑞の含みのある視線を受けながらレッドはケロリとした態度で返す。赤いマスクに赤いマフラー、全てへの反抗のようなつんつん頭は復活してどこからどう見ても『十傑集マスク・ザ・レッド』。

「サニーがお主の屋敷に泊りがけの看病をしたのは知っている」

「だからなんだ」

ふんぞり返ってピーナッツチョコを口に放り投げる。

「もちろん『あーん』などしてもらってはおらぬだろうな」

レッドは思いっきりむせてチョコを吐き出してしまった。
見れば樊瑞の目はマジだ。それに手には何本目かのバット。
未だ快音をとどろかせていないため、樊瑞はうずうずしているのだ。

「あ、あーんなどと・・・そ・・・そんな恥ずかしいこと!アホか貴様は!」

「本当か?」

いつもはストライクゾーンを無視した暴投しかしないレッドは、思わずたじろぐ。

「 ほ ん と う か ?」

「・・・・・・・・・・・・」

何故か否定しきれないレッド。
そしてうっかり顔が赤くなる。






バッターボックスに仁王立ちの樊瑞は高らかにホームラン宣言を行った。







END








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