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「そうだねぇ。たとえば、足湯をふるもうて頂いた」
「足湯(あしゆ)、でございますか?」
 李斎は瞬いた。それはなに、と、氾麟が足をぶらぶらさせながら、向こうの椅子から
聞いてくる。どこかで蝉が鳴き始める。
 午後の蘭雪堂には、午睡を終えた氾王が現れて、そのまま、六年前の思い出語りなど
している。
 李斎は少女に、寒さの厳しい戴での冬の習慣だと簡単に説明した。氾王は頷く、
「夜、寝所に、こればかりの陶器の盤を…」
 と、王は白い扇子の動きで、大きさを示した、
「なかなかにしゃれたものだったよ。くすみのある地色に釉薬が効いていて、白のまだ
らの浮き出た…きっとあれは、水盤などではなかったのだろうねぇ。それを深夜あまり
に寒くて眠れないでいると、心のきいた――あれも女史か何かだろうよ、――四十前の
口数の少ない女官に運ばせて。その者が焼いた石をいくつか放り込んで、その場で黙っ
て熱い湯をつくってくれたのだけれど、足を浸していると、すっかり汗が出るほども温
まってね。そうしたらすぐに、よく乾いた寝間着の替えが出されてきて、おかげで朝ま
で、ぐっすりと眠れたのだよ…」
 氾は、実際にそのときの心地よさを思い返すように、うっとりと小さく息をつき、満
足げに微笑んだ。
「……」
 氾のいう「よいもてなし」が、贅を凝らし、ただ費用をかければ出来る、という水準
とは、どうも相当にかけ離れた贅沢さを要求している、ということが李斎にも、なんと
なく理解できてきた。
 実際、氾王が語ったことは、どれも、どちらかといえば、李斎が育ったようなごく一
般の家で泊り客をもてなすときにでも通じる、いわゆる心配りが中心で、決して特別な
ことでもなければ、大して費(つい)えのかかることでもなかった。ただ、それを、こ
の十二国きっての趣味人の目に適うように演出する工夫を、驍宗はどうやら心得ていた
ものらしい。
 対するに、先の王は、平凡といえばそれまでだが、工夫のない人間であったようで、
しかも、なまじある財力が、それを一層悪いほうに昂じさせてしまう類の人物だった。

 驍宗があの六年前、氾王の滞在した部屋に、名笛一管を届けさせ、それには、音曲が
お好きな王を十分におもてなしできず誠に申し訳ないが、戴の夜は風が強いゆえ、お部
屋内のつれづれには風と奏していただければ幸い至極、との、いささかぶっきらぼうな
口上が添えられていた、という話をした後、氾王は、驕王を引き合いに出した。
「私が楽を好む、という話を予め手にしても、これほどに出方が違うのだからねぇ」
 氾王が回想する。
「もうずいぶんと昔の夏、あの王宮に泊まったおり、開け放した窓に、夜中園林の奥か
ら、琴の音がした。宮中の楽士のひとりが、客がいるとは知らず竹林で練習していたの
だけれど、なまじ完成されたものでなく、繰り返し弾くのが、かえって風雅でね。なん
ともいい音だった。翌朝、あれは誰か、と当時の泰王に問うてみたのだが、あのばか者、
調べて即刻、その男を免職にしてしまったそうな」
「ああ。いまの楽士長ね」
 氾麟が口をはさんだ。李斎が、え、と振り返る。
「所属は正式には冬官で、いまじゃ範国一の六弦琴を造るわ。そのときに主上が、城下
に人を残して探させて、範に連れてって楽士に召したのよ。ね」
 氾の方を見ると、すました顔をしている。
「それをどうやら後に、耳に入れたものがあったらしい。それから十何年もして、次に
戴に行けば、朝から晩まであらゆる部屋が、楽でうるさいばかりじゃ。しかも、宴席で
は庭に面した扉を全部開けて、庭先で楽士たちに演奏させたのだよ。冬の初めだもの、
いくら部屋を暖められても、雪の上で演奏させられる楽士らを、見ているだけで食事を
する気などは失せて、途中で立って、そのまま範へ帰ったよ」
 一事が万事、というが、これでおよそ、先の王のもてなしの姿勢が知れようというも
のである。よかれと思って、おおはしゃぎで思いつく限りのことをやった王は、この徹
底した趣味人の前に、むしろ哀れを誘うが、それでも、その為人は、余りに貧しい。
 飾りや服装の趣味については、天分ということがある。自身、装いにさほど執着しな
い李斎は、氾王の手厳しい驕王評に、幾分かは同情的だったのだが、この冬の宴席の話
には、少し考えさせられた。

 彼女はついに一度も、彼女が生まれたときから玉座にあった、この前王を見なかった。
李斎が成長したころ、国はまだ平穏に思われた。ごくたまに起こる内乱は、常に他州の
ことであり、税は話題に上るほどには重くなく、総じて戴は平和であった。
 だが、彼女が州城の高みで生活しはじめた頃から、じわじわとしかし確実に国は傾い
ていった。それは二度と持ちなおすことはなかった。誰の目にも狂いが見えていても、
ただの一度も上向かずに、そのまま、和元二十二年までを、静かに落ちきっていったの
だ。
 当時の民は、どんな王朝の終末でもそうであるように、道を失った王を憎んだ。李斎
も勿論、憤った。その失い方が、過度の浪費という見えやすいものであったために一層、
遠からず沈む王に対して、ひたすらやりきれない怒りと苛立ちを皆が向けた。
 だが李斎は、当時それからの驕王後の戴を、一度も考えてみなかったように、自分が
長く戴いた前王を、一度も人間として考えてみたことがなかったと、いま、気がついた。
 そうだ、王はひとなのだ。神の籍に入っても、心が神になるわけではない。
 もとは只のひとでしかない。
 彼はおそらく、無邪気なほどに無神経なところがあり、権威に対して卑屈であり、し
かもそれらに対する羞恥心を、長い在位で次第に鈍磨させていったのだろう。
 ある日突然玉座についた小人物は、小人物ゆえの生真面目さで、自分に与えられた仕
事を間違うまいとした。彼は、前例を徹底的に重視し、前例にないことを嫌った。
 法に従い、礼に(これは儀礼にといったほうが正しいかもしれないが)厳格だった。
過誤と変革を極端に嫌い、細心の注意を払って、国の政を行った。
 そして。それほどまでに立派に王の職分を朝において果たす代価として、燕寝におけ
る、王なればこその贅沢を極めた私生活を要求した。要求はかなえられた。だがひとの
欲望には限りがない。所詮ひとは人間である己の内に起こる欲求を制しなければ、生き
られない。それにしくじれば、必ず滅びる。それはなにも、王には限らない。
 だが、神の位に上ったために、彼は己を制するものを、もはや己自身しか持たなかっ
た。心弱い、小人物の己より、他にはなにも持たなかった。麒麟の病は、多くの場合、
遅い警告もしくは告知としての役しか果たさないものである。
 
 驍宗は。と、とっさに思いはそこへ行った。
 主上は、どうだったのだろうか。極みに登る前から、見知っていた。それは短い時間
だったが、噂通りのいや、それ以上の優れた人物だったのは確かである。人間の器の出
来の違いというなら、確かに彼は只者ではなかった。
 王になって、一層それは顕著に見えた。彼は強い人物だった。
 それでも、彼はひとだったのだ……。
「疲れたのではないかえ」
 優しい声音に、李斎ははっと我に返った。いえ、とそれが最近は癖にでもなったかの
ように、軽く左手で胸を押さえる。
 藤棚の緑は陽光を透かしている。その影はもう幾分か奥へと伸びていた。金波宮の夏
の一日は、いま最も暑い時間を迎えている。
「無理はせぬことだ。もうしばらくすれば、小猿も戻ってまいろ。見つかったときには、
必ずとんで知らせにやるゆえ、一度、戻って休みなさい」
 素直に李斎が立つのを、氾は軽く頷いて見やりながら、自分も立つと先に扉に歩んだ。
そうすることで、まだ動きの覚束ない病み上がりの李斎に、伏礼の労をとらせることを
避ける。その心遣いがもったいなく、李斎はただ、小さく黙礼する。
 黒のほうが似合うね、と氾が微笑んだ。李斎が目を上げ首を傾けると、氾王はその視
線を受けて、李斎の背後へ流した。
 ああ、と李斎が笑む。氾王は、たった一度戴であったおり、李斎がその赤茶の髪につ
けていた、漆黒の飾りのことを言ったのだ。
「あれは、借り物です」
「そうだったのかえ」
 趣味人の王は、ただはんなりと笑った。


 李斎の姿が回廊を曲がって行き、庭柯の向こうに消えるのを、ひらひらと手をふって
見送ると、黄金色の少女は、肩を落としてため息をついた。
「どうしたね」
「――すでに泰王が目をお留めの御品であったゆえ、あきらめた。そう、おっしゃって
ましたわよね」
 見上げる麒麟の目に、ちらと視線を下した氾は口元に扇子を当てた。
「さて。覚えておらぬが。なんのことかえ」
「さぁ。なんのことでございましょう」
 麒麟もにっこりととぼける。
 風が渡った。氾は袖を捌き、ふうわり、と白いその扇子を下す。
「いかが巡ろうと、余人の手に収まることはあるまいよ。磨き手は、とうに決まってお
るのだもの…」
 声が、静かに庭に落ちた。


 部屋のすぐ外で、ぼそぼそと話す声がする。
 それはあの背の高い、若い方の下官だろう。先刻頼んでおいた資料が、もう揃ったと
みえる。現在李斎の周りにいる軍吏たちは、どの官も無愛想なくらい口数が少なくて、
仕事が速い。
 三軍しか存在しない王師で、瑞州師中軍は事実上の第三軍に昇格している。その中軍
の運用を軌道にのせるため、瑞州府の一室で書類業務に忙殺される隻腕の将軍を、みな
よく補佐してくれていた。
 背後で扉が開いたが、李斎は振り返らない。
 入るなり、思わず立ち止まってしまったらしい気配に、彼女は、背を向けたまま小さ
く苦笑した。
 この二日李斎は、明日の朝議が期限の、中軍の現状に関する報告書の作成に追われて
いる。
 なのに大机は、書類が一面に広がり筆が置かれたままで、空席。部屋の主の李斎はと
いえば、扉から正面の窓に向いて仁王立ちになり、盛んに体を曲げては、体側を引き伸
ばしているところなのだった。
 ――いきなり見れば、驚くだろうな。
「御苦労。――その脇の卓(つくえ)に置いてくれ」
 無言で紙の束を下す音がする。李斎はこの際、恥のかきついでとばかり、声をかけた。
「すまないが。こちらへ来て、ちょっと手を貸して貰えると、有り難いんだが」
 官服の衣擦れが、割合素直に、李斎の背に歩み寄る。
 李斎は背後の彼に、右腕の残された部分を袖の上から示すと、後ろから持ってくれる
ようにと、頼んだ。
「もっと、しっかりと掴んでくれていい。そうだ。そのまま引き気味に、呼吸に合わせ
て五拍で曲げ、元の位置まで四拍で戻す――やってみてくれないか。まず、左から…、
一、…二、…――五、ゆっくり戻して――四、そう。――…次は上に。一、…」
 ひとりでもやれないことはないが、どうしても右腕の長さと重量が欠けている分、左
右均等には負荷をかけられない。こうして誰かの手を借りれば、肩回りも上腕も、十分
に伸ばすことが出来る。
 李斎はこの運動を、官邸で毎晩欠かさず行っており、昨日今日は、仕事場でも数回、
自分でやっていた。
「さすがに、慣れない左手の書きものがこうも続くと、背中がひどく固くなってしまっ
て…」
 言訳すると、李斎は気分よさげに大きく息を吐いた。
 こうした身体各部の引き伸ばしは、鍛錬の補助として大抵の武人が日々している。し
かしこの文官は、武芸などよく嗜むのでもあろうか、思いがけず要領良く的確に李斎の
短い方の腕を、筋の方向にそって、上手に曲げ伸ばす。身長もちょうど良かった。
 一周がすむと、もう二周りを頼んでおいて、李斎は軽く目を閉じた。
 本当に気持ちが良い。
「…どうやら、明朝に間に合いそうだ。泊りの官を三人、手配しておいてくれ。私の悪
筆をあれだけ浄書するのは、徹夜仕事になるだろうから…」
 返事がすぐに返らないので、やや訝ったのもつかの間、太い声が落ちた。
「うむ。それは後で、下官に言え」
 李斎は瞬間、目を見開き、そこで固まった。思考も一旦、止まる。
「……」
 事態を飲み込むや、冷や汗が一気に噴出している李斎をよそに、背後の人間は悠々と
言葉を続けた。
「止まるな。まだ終っておらぬ。それ、四…五、戻すぞ、…一、…」
 李斎は深呼吸するどころではない。蚊の鳴くような声で、あえぎあえぎ、頼んだ。
「お願いで…ございますから、主上…、」
「なんだ。――もっと力を抜かぬと、効果がなかろう。次は上だな」
 お離し下さい、の声が出せずに、あちら向きで半べそ顔の李斎は、驍宗にしっかり左
肩を固定されたまま、右腕を今度は上にと引き伸ばされる。
「こんなことをいつも下官にさせておるのか」
 頭のすぐ後ろで驍宗の声が、やや不満気に響く。
 李斎の耳には、その声の裏にある本音などは、まるで聞こえていない。
 こともあろうに、主君を下官と間違えた上、本来役所の人間にさせてもどうかという、
運動の補助など、やらせてしまった。否、たった今も、させているのだ。畏れ多い、な
どいうやさしいものではなかった。
「申し訳もございません……」
 声は、消え入りそうに細る。実際、消えたい気分の李斎である。
「なにがだ」
「主上に、このような…」
「私ならば一向かまわぬ」
「はぁ…あの、ですが」
 主上だからこそ、大いに困っている李斎は口篭もる。驍宗は舌打ちして、李斎の腕を
握りなおし、肩をたたく。
「力を抜かぬか。せっかくほぐれたものが、固まるぞ」
 返事に困り答えない李斎を、今度は、少し優しげな声が促す。
「あと一周だ。よいから。黙って力を抜いていろ」
「………」
 李斎は、観念した。
 苦労しながら息を整えると、雑念を――これほどの無礼を雑念、としてよいかはとも
かく――、一時頭から締め出した。そして、再び背中をまっすぐ伸ばし、背後の男に腕
を預けて、大きく息を吐く。
 驍宗は黙って笑んだ。そして、静かに、腕の曲げ伸ばしをまた始めた。
 部屋にはしばらく、二人の呼吸だけが聞こえる静寂が降りた。
 実際のところ、李斎との会話を欲して、口実を設けてまで非公式に瑞州府に足を運ん
だ驍宗であった。泰麒がちょうど席を外していた州侯官房(執務室)の控の間に、連れ
てきた供を置くと、先触れも連絡もなしにこの部屋の前まで来て、書類を抱えた下官と
行き会った。
 扉を開けたのは、件の下官から李斎に渡す資料を取り上げた、驍宗本人である。
 入ってみれば、李斎はなにやら体操の真っ最中で、振り返りもしない。そのまま成り
行きで、これほどの接近となった。この彼としてはいたずら気を起こした結果は、少な
からず楽しくさえあっても、不愉快であるはずがない。
 たとえ色気とはまるで無縁の単なる体操の手助けであろうと、ほとんど彼女の背につ
く位置に立ち、顔の前に赤絹の髪が香っており、両手で彼女に触れて、その深い息遣い
を耳にしている。
 そうした希いも当然あったはずだが、不思議と、このまま抱き締めたい、などという
思いが涌かなかった。ただ、二人きりの部屋でこの距離で、このように穏やかな時間を
持ち得ている現実が、彼を静かな幸福で満たした。
 李斎も李斎で、奇妙に落ち着いてしまった。
 彼女は、自分が右の残肢を最前から、ずっと驍宗に触れさせていたのだということに
気がつくと、そのことに大いに驚いた後で、唐突に、一種の安心とでも言うべきものを
覚えたのだ。

 驍宗は一度も、彼女の腕に言及したことが、ない。
 そもそも、腕を失ったことなどは、見れば知れる。見(まみ)えたとき、彼は李斎に
それを一語も聞かず、彼女も言わなかった。ただ驍宗は、背の伸びた己の麒麟と片腕と
なっている女将軍に向き合ったとき、ひたとその姿を見つめ、黙って彼らを強く抱き寄
せると、たった一言、「苦労をかけた」とつぶやいた。
 短いその言葉に、王は彼らの苦難の歳月を、万感こめてねぎらった。そして、その後
いかなるときも、驍宗は一切、過去に関わる所感を口にしていない。不在の間のあらゆ
る報告に際しては常に、そうか、とだけ述べた。
 李斎は、それで十分に納得していた。それ以上は、考えもしなかった。だが彼女以外
の人々はそうではなかった。
 彼女はいまや、救国の英雄だった。
 側にあり、その為人をよく知る者らこそ声を控えたが、李斎本人から遠去かるほどに、
彼女が右腕を、ひいては武人としての生命を、戴と驍宗にささげたのだ、という、好意
に満ちた賞賛の嵐は、李斎の内実を無視して大に過ぎ、さしもの彼女を憂鬱にすること
があった。
 まして、それが当然であるかのように、驍宗は彼女に報いるだろう、勿論報いねばな
らぬという声の起きるにいたっては、困惑せざるを得なかった。
 こうした雑音は、気にすまいと思いながらも彼女を過敏にした。今日まで李斎はどこ
かで、驍宗から彼女の右腕を気にかけられるのを、恐れていたのだ。

 驍宗は、まったく動じなかった。いまもそこに手を添えて呼吸に合わせて数を数え、
同じくそっと滑らせるように支えては、もとの位置へと持ってくる。呼吸の乱れも、緊
張もない。
 布越しに感じる大きな手の温もりに、恐縮しながらも、李斎は安堵した。すると非常
に嬉しくなってきた。我知らず笑みさえ浮かび、そしてつぶやく。
「――やはり、小そうございます」
「いや。そんなことは…、―――何がだ?」
 肩越しに見下ろしていた驍宗が、気づいて問いなおした。李斎はちょっと首を傾けた
が、答えた。
「人間の器量、です。分かっていたつもりですが、李斎などは到底、主上の足元にも及
びません…」
「そうか…」
 首を傾け眉を寄せて答え、驍宗は咳払いした。
 最後に腕を回し終えた四拍めで息を大きく吐くと、李斎は驍宗を振り返った。真直ぐ
に王を見て、礼を述べる。
 朝議の席でこそ、毎日会っていたのだが、そのすっきりとした屈託のない表情をこれ
ほど近くで見るのを、驍宗はずいぶんと久しぶりだと感じた。
 驍宗は、満ち足りた気分になり、大層素直な微笑を、その顔に返した。
 そうすると、なにかひどく面映くなってきたので互いにおかしくて、ふたりともくす
くすと笑った。李斎は言葉を省略し、とうとう無礼を謝らなかった。また、驍宗も誤解
をそのままにした詫びは省いた。右腕に触れたことも、触れられたことも、やはりどち
らも言わなかった。


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