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スタート、ワールドエンド 01






「・・・かったりぃですわ。親父ぃ」
「そういうなや真島、お前がおらんとわしも示しがつかんからなぁ」
 がはははと豪快に笑う嶋野の隣で、真島はため息をついた。
 見えるのは白と黒のコントラストばかり、各言う自分もその無機質な色の一つ。
「まぁお前は適当にぶらついとけや。間違っても喧嘩売ったらあかんで」
「それは向こうの出方次第で決めます」
「それでえぇ」
 東城会本部、傘下の組長が病気で他界したのはつい此間の話だった。まだ若かったのに、気の毒と流れる哀れむ言葉の数々。
(何が気の毒や・・・頭ん中には組みの引継ぎのことしか考えとらん癖に)
 彼は気づいていた。その中からひそひそ実しやかに流れる声に。どれだけ末端の組織だって、二万五千という城の土台。欠ければやがて頭上に支障をきたす、修復は急務。そしてこの場にいる主立った面子はほぼといっていい。死んだ組長よりもそのことのほうが大切なのだ。
「おー!風間ァッ!」
「・・・嶋野か」
 何を隠そう、嶋野もその一人。頭のいなくなった組を吸収しようと現れたわけで、この後に控えている幹部会でそれを進言するために来たのだ。出なければ、会ったこともない人間の葬式に来るはずがない。
「この度はご愁傷様やったのぉ。お前が目をかけてた男やったんやろ?あいつ」
「・・あぁ。頭のいい奴は、すぐに死んでいく」
「せやなぁ・・」
「・・・気づいちまうのかもな。この世界が腐ってることに」
「相変わらず、小難しいことしか考えとらんのぉお前は」
 微妙にかみ合わない会話が交わされる。嶋野と風間は旧知の仲、表面上は仲よさそう取り繕っているが実際の二人の仲の険悪さは真島がよく知っていた・・・正確に言えば、嶋野が風間のことを毛嫌いにも近い感覚を抱いていることをだ。これは二人の根本的なことが原因だから、どうしようもない。
(あーあー。あんな殺気出して、自分のほうが自重しろよ。親父)
 腹の中は同じと読んだのだろう、嶋野が風間に向けるモノは明らかな殺気だ。向こうも気づいているのか一定の距離を保っている。その感覚を直に味わいながら、ため息をつく。
(ええなぁ・・・)
 だが、嫌ではない。嫌でないから、彼はこの男の下にいる。
「・・・お前が、真島か」
「・・・ぁ。そうです、初めまして」
「噂は聞いてるぞ。"嶋野の狂犬"」
「それは他人が勝手につけたもので、俺ぁそう思っていないです」
「何言ってんねや。風間にもお前の喧嘩する様見せてやりたいわ」
 生死のギリギリが好きなのは、それこそこの世界に入る前から。それ等を手っ取り早く求めていった結果、今では大層な名前をつけられてしまっただけの話。それのおかげで最近は絡んでくる人間も極端に少なくなり、いよいよ世界に独りきりになったような感覚を味わい始めて。

 "この世界が・・・腐っている"

 確かにと、頷いてしまうと自分も同じ轍を踏んでしまいそうだからそれを否定する。結局肯定したところで、この世界から逃げれるわけではない。ならば見ないフリをして、楽しいことだけを探していればいい。
「・・・・」
 しかしそれが困難になろうとしている今。世界に、黄昏が下りてこようとしている。贖うことのできない終末点が、見えようとしている。
(俺ももう、さっさと退場したいわ・・・こんな世)


  ドス――ッ!


「!!?」
 その言葉が。引き金だと。呟けばこの世界が終わることもわかっていた、わかっていて紡ごうとした瞬間。真島の体を、まるで鋭利な刃物で刺すような痛みが、襲った。
「・・・!?」
 慌てて見回す。刺されていない、辺りには誰一人たっていない。だが彼にはわかった、それが何であるかそれが誰の"モノ"か。



   アイツ、あの餓鬼・・・ッ!



 殺気を辿る先には、黒い短髪にと喪服。この場ならどこにでもいる、青年が立っていた。だが明らかに浮いていた、雑踏の中に紛れた獣。少なくとも真島の片目にはそう映った。
「どうかしたか?」
「・・・いえ。あの坊主、どっから入ったんかと思って」
「・・・あぁ、アイツか」
「なんや、風間の知り合いか?」
「一馬ァ!!ちょっとこっち来い」
 ぴくりと、青年の方が動きこちらに来るまでの間。彼は殺気をずっとこちらに向けたままだった、しかし風間の隣に立った途端それが嘘のように消え失せる。
「紹介する。桐生一馬、俺が子供のころから目をかけてやってる奴だ」
「・・・初めまして」
 一礼して顔を上げる、仏頂面で真島から見ればまだ子供、気配も一般人と微塵も変わらない。
「風間。お前また子育てしとんのか」
「親っさんに恩返しがしたくて俺が無理やり入らせてもらったんです。親っさんは悪くありません」
 嶋野の挑発とも取れる言葉を、一蹴する。垣間見えた気配は先ほどと同じ、つまりあの殺気を向けていた相手は嶋野ということになる。
「・・・なかなか、肝据わっとるガキやのぉ」
「まだ入りたてて口の利き方がわかってねぇんだ。勘弁してくれ」
「まーしゃーないわな。俺も昔はそうやったからなぁ・・・がははははッ」
 向けられた嶋野は気づいていない、親である風間も気づいていない。だが真島は気づいた、桐生という二十歳幾許もない青年の殺気。今にも親を殺しかねなかったその気配。
「・・・」
 青年の目には、彼の敬愛する親しか映っていないようで。真島の片瞳が向いていることに気づいていないらしい。







         みぃつけ、た。


 だから気づかない、終末に向かうはずの男の目がどんよりと光ったその刹那を。




「テメェ・・・調子乗ってんじゃねェぞッ!!」
 男の暴言に、彼は嘲笑うだけ。
「な、何がおかしい!?」
 あまりの態度に激昂した別の男は、拳を振り下ろした。それは彼の腹にまともに抉り込む。みしりと骨の軋む音を前に一瞬意識がぷつりと途絶えて、思わず膝をつく。
「かは・・・ッ」
「風間の親父に認められてるからってデカイ面しやがって・・ッ!テメェムカつくんだよ桐生!」
 容赦なく浴びせられる罵声怒声暴力。体を丸め込んで耐え凌いだ。彼らが飽きるまで、只管に。
「・・・・・」
 ある程度の事態は予測していたが、実際は予想以上だった。同時に、敬愛する人物がいかに高潔かを彼は知った。あの人に恩を返したいと考える彼にとって、ここでの暴力沙汰は彼の人に対する迷惑でしかない。
「っぅ・・グ」
 だから耐えた、ただずっと。叫んだところでないたところで助けてくれる人物もいないことはわかりきっている。



      入り口に立てた自分は、世界にただ一人きりだと理解していたから。









スタート、ワールドエンド 02








 人の滅多に通らない、裏路地。華々しい光から逃げるように、体を引きずりながら歩く。一歩踏みしめる度に体の至る所が悲鳴を上げた。
「・・・っ」
 いつ意識を手放してもおかしくはない。先輩と称した名前も知らない人間達から暴力を受ける日々。いくら自分の回復力が尋常でなくたって、限界がある。コップから溢れた水があたりを水浸しにするように、庇い切れなくなった傷は痛みと苦痛を齎した。
「・・・」
 自分という糸が、切れた音が何を切っ掛けか聞こえた。ガクンと力が抜けその場に倒れこむ。立ち上がりたい気持ちを上回る、無力な自分に対する苛立ち。
「・・しょォ」
 こんなところで終われるはずがない、あんな下種のような奴らに終わらせられる人生など持っていない・・・・否、奴等だけではない、この世のすべての人間に終わらせられる人生など持っているはずがないのだ。

 やっと世界の入り口に立てたところなのに、誰かのせいで終わるなんて真っ平だ。

「ちく・・・しょぉ・・っ!」
 それなのに今、意識を手放せばこのままこの世から消えてしまいそうな瀬戸際にいる。恩返しもできぬまま、野垂れ死のうとしている自分がいる。情けなくて悔しくて、けれど目から溢れるモノを拭う力すら、残っていない。



      ダレカ、タスケテ。



「お、よかったまだ生きとった」
 無駄なことが頭を過ぎったのと、背後から声が聞こえてきたのほぼ同時だった。

















「いやー。死んでたらどないしようか思った」
 桐生にとって、突如現れたその男は文字通り"奇天烈"としか言いようがなかった。ネオンサインの毒々しい多くの色を背負い、眼帯で片目を隠し素肌にジャケットを纏う。挙句右手には金属バット、左手には・・・。
「・・・・」
 左手には、人の頭部。姿だけが異質ではない、よく見てみれば一人の男を引きずってきていた。その男は、つい十数分ほど前まで彼に暴力を振るっていた連中の筆頭。
「アン・・タ、何して・・・」
「俺か?俺はただそこでバット振るってただけで?そこにこいつらが飛んできてなぁ、話聞いてみたら謝りたい相手がおるんやと」
「あ、ゃめ・・・くら・・・兄」
「――謝る相手、違うやろ?」
 引きずられていた男は、解放されるや否や足を引きずり彼の前で土下座を始めた。最早言葉は聞き取れない、口の中を切ったかあるいは歯を折られたか、暗がりで見えないがその姿は今の桐生よりも相当酷いモノだった。
「まぁよう事情わからんけど、こいつもこないに謝ってるし。これで許したってや・・・

    なぁッッ!!!」

              ゴキ――っ!


「っっ!!?」
 言葉とまったく裏腹の、どうにも聞きなれない音が耳に届いた。見えたのは、血まみれのバットが振りあがった瞬間と、土下座していた男が悲鳴すら上げずにコンクリートに倒れこむ姿。何が恐ろしいか、理解すらできなかった行為から現実に目を戻してみれば、再度バットを嬉々として振り上げる男が飛び込んできたことだ。思わず痛みすら忘れ男の腕に飛びつく。
「止めろォォッ!」
「あぁ!?なんでや、傷つけられたんはお前やろっ?邪魔すんなやっ!!」
「もういい!これ以上やったら死ぬだろ!?」
「自分も死にかけてたやないか!」

「でも生きてる!!」

「・・・・まぁ、それもそやな」
 必死の声、男はあっさり頷くと右手を手放した。転がる、先のへしゃげたバット。倒れた人間はぴくぴく指を動かしているのだけは確認できた、しかし頭上に咲くのは朱色の華。
「はやく、はや、く救急車・・・!」
「・・・しゃーないな」
 男はそんな状態を見て大きなため息を一つ、ぱちんと指を鳴らせばどこからともなく現れる数人の人間が乱暴に倒れた彼を持ち上げ闇へと消える。残されたのは、薄黒く変色した華と自分と男。
「・・・・どこに」
「どこにって、病院・・・まぁ、この世界から足は洗うやけどなぁ・・ええんちゃう?」
 まるで興味のない玩具を捨てる時。背筋が凍る、体温が無機質なコンクリートに奪われていく。立つことすら億劫のはずなのに、座ることを心が拒絶する。今膝を着けば、自分も朱色に染まってしまう。この男に、殺されかねない。
「・・・っく」
 だが体はあくまでも。力の抜けた膝がそのまま重力に従う。
「っと・・・大丈夫か?」
 膝がコンクリートに着くか着かないか、その寸前。体が引っ張られた。視線を向ければ、眼帯の男が笑っている。
「さて、家どこや?」
「・・・?」
「病院行きたいんか?このあたりは全部東城会の息かかってんで?」
 その言葉がいかなる意味を持つか、わかっていた。わかっていたからこそ、首は自然と横を振る。けれど横に振れば・・・?



「なら、家送ったるさかい教えたってや・・・桐生ちゃん?」



「・・・・・場所、は」
 少し霞む視界に映る恐ろしいまでの笑顔と離さないように力の込められた腕、逃げ場を失ったまだ若い青年は。震える唇で最初の一歩を踏みしめた。
    (それが終わる世界の最初の一歩だとも知らずに)






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