決して踏み入るな
こちらを向いてはいけない
お前はいつまでも
美しい光であってくれ……
「…テスタメントさん…テスタメントさん、どこですか?」
そこは、木漏れ日の美しい森の中。心の安らぐ光が体を包み込み、本来ならばすっきりと癒してくれる小鳥の声も耳に優しい。が、今現在、この森に踏み入ったディズィーには足りないものがあった。
それは漆黒の優しい人。いつも自分を想い、守ってくれていた存在が、今は何故かいなかった。ディズィーは、不安そうに周囲を見回した。
「…どうしたのかな…いつもならテスタメントさん、ここで待っててくれるのに。」
ひょっとして、何かあったのだろうか。急に心配になってきて、ディズィーは歩くスピードを少し上げた。本当ならば翼を広げて飛んでいきたいところだが、そうするとここにいる小鳥達を驚かせてしまう。彼女は仕方なく、自分の二本の足で森の中を走った。
「テスタメントさん、どこにいるの…?」
彼女は呟いて、ふとした違和感に気がついた。足を止め、その違和感が何なのかを考えてみる。そしてその答えはすぐに出た。彼女の目が、僅かに見開かれる。
「……血の匂い……。」
彼女の鼻腔に広がったのは、確かに鉄のような血の匂い。ディズィーの血の気が引いた。これは、「テスタメントに何かがあった」というよりも、「彼を取り巻く何か」に何かがあったと考えた方が正しいかもしれない。ディズィーは、胸騒ぎを止める事もできずに、胸元を押さえたままで走り出した。先程よりも早く、早く。
テスタメントが何をしたのか。この血の匂いは何なのか。いずれにせよ、これがテスタメントの血でない事を祈るしかない、だろう。彼女は、だんだん濃くなってきた血の匂いに咽そうになりながら、足を早めていった。
そして。
「…………っ!?」
ディズィーの目が限界まで見開かれる。そこに広がっていた光景は、あまりに残酷だった。美しく堂々と立っていた木を真っ赤に染めて倒れている人間達。血の海が広がり、そこに沈んでいるのは何も人間だけではなく、巻き添えを食ったらしい動物達までがいる。そして、その真ん中に立つのは、あの優しい闇のギア。そして彼自身も、体中から血を流していた。明らかに、返り血ではないと分かるほどの。
ディズィーはたまらなくなって、テスタメントに駆け寄ろうとした。が、テスタメントが先にディズィーの存在に気付き、ひどく冷たい目で睨みつけてきたため、彼女はもうそれ以上動く事ができなかった。
「…テスタメントさん…これは…どういう事ですか?」
絞り出した声が、震える。テスタメントに恐怖を感じるなど、今までなかったのに。どうして、と心の中で思い、その答えを出すより先に、テスタメントの静かな溜め息が聞こえた。その赤い目は、相変わらずディズィーを捕らえたままで。
怯えるディズィーをしばらく見つめていたテスタメントは、やがて力ない微笑みを浮かべた。ゆっくりと、近付いてくる。ディズィーはあとずさる事もできずに、その様子を見ていた。やがて、彼女の元に辿り着いたテスタメントは、そっと、だが力強くディズィーの肩を掴んだ。それは痛いほどで、思わず顔をしかめてしまう。
「テスタメントさん……?」
「私には…何も残らない。」
名を呼んで帰ってきたのは、そんな応え。いや、むしろ答えにもなっていないのだが、テスタメントは俯いたままで、ディズィーに顔を見せようとはしなかった。身長差はかなりあるのに、テスタメントの長く垂れた髪が表情を隠している。ディズィーはしばらくうろたえていたが、何かを決心したようにテスタメントの肩を掴んで引き離した。まだ、彼の表情は見えない。が、お構い無しに、ディズィーは押し殺した声で言葉を紡いだ。
「これはどういう事ですか、テスタメントさん。」
こんなに人を殺して
自身も傷ついて
一体何があったのか
「…フフフ…ック、ハハハハハハハハハハハハハ!!」
突然狂ったように笑い出したテスタメントを、ディズィーは驚いたように見つめた。いつもの冷静な彼からは考えられないその姿に、声を失う。自分を見つめてくるディズィーに視線を戻したテスタメントは、優しく微笑んでいた。そのどこか狂気じみた笑顔に、ディズィーの心が震える。しばらく会いに来ないうちに、一体彼の何が変わってしまったと言うのだろうか。その答えは見つからないまま、テスタメントは次の言葉を発していた。笑顔のまま、声は低く。
「言ったろう、ディズィー…私には何も残らない。」
「……え?」
「私は暗い影の中で生きる者。何も…何も残されてはいない!」
なおも笑い続けるテスタメントを、ディズィーはただ呆然と見つめていた。結局、どうしてテスタメントがこうなったのかは分からず終いか。ディズィーの唇が、無意識にテスタメントの名前を呼んだ。どうして、何も変わっていないのに、何かが変わってしまったのか。何かがあったのならば、自分にも話して欲しいのに。今のテスタメントには、そんなディズィーの心情さえ、察する事はできなかった。ただ、ディズィーの目には、笑うテスタメントが悲しい目をしているように見えた。そう思うと、彼女自身も悲しくなってくる。
気がつくと、ディズィーはテスタメントの腕を引っ張っていた。彼の笑い声が、ぴたりと止まる。そんな様子に構っている余裕は無く、ディズィーは自分の髪を結わえていたリボンを外し、テスタメントの傷口に押し当てた。じわじわと、布に血が染みて行く。それを見つめながら、ディズィーは静かに言った。
「テスタメントさん、貴方が影に生きるものなら、私は何ですか。」
ディズィーの言葉を、テスタメントは表情も変えずに聞いていた。心ここにあらず、と言った表情に悲しみを覚えつつ、ディズィーは下からテスタメントの顔を覗き込む。そして、涙が出てきそうなのを必死で堪えながら、ゆっくりと言った。
「私もギアです。この力は人をも殺します。…貴方と、何が違うの?」
紡がれた言葉の悲しさを、果たしてテスタメントは感じただろうか。だが彼は、変わらず優しく微笑んだままで、ディズィーの頭を撫でた。びく、と震える彼女に告げたのは、ディズィーの欲しかった言葉ではなかった。
「…お前には仲間がいる。共に笑い会える仲間がな。」
言うなればお前は光
その裏側でそれに焦がれるのは影
私の存在はまさにそれ
お前に焦がれ
決して届かぬ
交わらぬ
「……。もう行け、ディズィー。」
テスタメントが、ディズィーから一歩離れた。その表情に浮かべていた笑みを綺麗に消して。変わりに、切なさと苦しみをたたえた目をして。その様子に胸が痛くなったディズィーは、左右に首を振った。こんな状態のテスタメントを置いていくなど、一体誰ができようか。だが、そんな彼女の様子を見たテスタメントは、ただ困ったように溜め息をついただけだった。手を伸ばして、ディズィーの頬に触れる。血にまみれた手がその柔らかな頬をなぞり、ディズィーの顔が赤く染まった。が、彼女もそんな事は気にしない。赤く汚れた自らの頬に触れもせずに、彼女は真っ直ぐにテスタメントを見つめていた。
「…帰りたく、ありません。」
「帰れ。ここは影の領域だ。お前のいるべき場所は、ここではない。」
いつに無く冷たい声が、ディズィーを打ちのめす。その痛みに耐えながらも、彼女はなおも首を縦には振らなかった。嫌がる彼女をしばらく見ていたテスタメントは、仕方ない、と言うように鎌を取り出した。その鈍く光る刃に、ディズィーが怯えた表情を見せる。テスタメントは、小さく息を吐き出すと、素早く一歩を踏み出して、ディズィーの体にその柄を埋めた。みし、と嫌な音がしたのは、きっとディズィーの気のせいではないだろう。彼女の背中に宿る二つの力ですら、その素早さに対処が遅れた。顕現した時には、もう彼女はテスタメントの方に倒れこんでいて。
テスタメントはそんな彼女を腕の中に抱きとめると、自分を睨みつけているネクロとウンディーネを見上げた。再び悲しげに唇の端を吊り上げる。
「ジェリーフィッシュに彼女を送る。すまなかった。」
呟けば、二つの力は翼に変わり、テスタメントは彼女を抱えて森の外へと向かった。
快賊団の船が、まだ地上にある事を祈って。
・・ ・・ ・・
「ディズィー!どうしたの!?」
快賊団の船に乗り込むと、メイが誰よりも早く駆け寄ってきた。そして、血にまみれたテスタメントを、何か恐ろしいものでも見るような目つきで睨みつけてくる。間違ってはいないため、テスタメントは訂正する事無く、ディズィーを床の上に下ろした。さらり、と零れた青い髪が床の上に散らばり、幻想的な姿に見える。そのあまりの眩しさから目を逸らし、テスタメントは口を開いた。
「眠ってしまったようだ。だから送ってきた。」
「…そう…。ありがと。」
「いや。」
テスタメントの説明を耳にしたメイは、とりあえず礼を言ってきた。が、その目は変わらず、心配そうにディズィーを見つめていて。その目の美しさに、テスタメントは心を決め、その少女の名を呼んだ。今までテスタメントに名前で呼ばれた事が一度も無かったメイは、驚いたように顔を上げる。そんな様子には構わず、テスタメントは静かな声で言い放った。
「ディズィーに伝言だ。…影に沈むな、できれば忘れろ、…と。」
「……?それ、どういう意味?」
メイが怪訝な顔を下のを、テスタメントは綺麗に無視した。この意味を、この少女に説明する気にはなれない。問いには答えず去っていこうとするテスタメントに声をかける事もできず、メイはそれとなくそこに眠るディズィーに視線を戻した。そんな彼女が見たものは。
「…ディズィー…。」
ディズィーは、黙って涙を流していた。閉じていた瞳をうっすらと開いて、その目から零れ落ちる大粒の雫は、全てを物語っているかのようにも見える。彼女は、メイの顔を見て、無理に微笑みながら体を起こした。体に鈍い痛みが走ったが、どうしてかそれを大して痛いとも感じずに、胸を押さえる。彼女にとっては、この心の痛みの方がダメージが大きいのだろう。
テスタメントの言葉の意味は分からなかったものの、ディズィーにそれを問い詰めるのはひどく残酷な気がして、メイはディズィーのすぐ傍に膝をついた。そっと抱きしめてやれば、ディズィーの細い肩が震える。
「…ねぇディズィー。無理して笑わなくても…。」
泣きたかったら泣いてもいいと、そう言おうとしたメイの耳に届いたのは、小さな嗚咽を含んだディズィーのくぐもった声だった。
「私…影を失うくらいなら、光にはなれない…。」
「……。うん。」
「私、もう少しの間…影に溺れていたいんです…!」
「…………じゃあ、そうすればいいよ。」
本当に、全く意味は分からない。だが、メイはディズィーの好きにさせておきたくて、ただ頷くだけだった。その態度に救われたのか、涙に濡れた瞳を細めて彼女は笑った。すみません、と謝られてしまい、メイもどうしたものかと一瞬悩んでしまう。が、すぐにディズィーを元気付けるために笑みを浮かべ、もう一度その小さな体で抱きしめてやった。
その様子を見つめる「影」の存在には、気付かぬままに……。
決して踏み入るな
振り返って欲しくも無かったのに
どうしてお前は
自ら影に沈んでくるのだ
お前は光
私はその裏に潜むもの
どうか
見失わないでくれ……
fin
1
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―――ここはメイシップの中、食堂内でジョニーを除いたみんなで作戦会議中―――
エイプリル「さて、今週の議題は…、」
進行役のエイプリルが話を始めると、すかさずメイが手を上げ、
メイ「ジョニーの誕生パーティについて~っ☆☆」
エイプリル「ふぅ…。はいはい、わかったから落ち着いて…。」
メイ「むぅぅ~~。だってその日はボクにとって、とーーっっても大事な日なんだよ!?」
ジュライ「゛みんな″にとっても、だろ?」
ジュライに指摘され、メイは少し照れて赤くなりながら。
メイ「……、そうだったね。ごめん。でもどうしよう…、
ジョニーどんなのが喜ぶかなぁ?」
――。
―――。
____。
しばらく続いた沈黙の後に、何かを閃いたかの用にメイが提案を出した…。
メイ「こんなのはどうかな♪ジョニーって賑やかなのが好きじゃない?ボクたちだけでやるのも楽しいけどさ、もっとおおぜい呼んだらも~っと楽しそうだと思うの♪」
机に突伏したままの体勢でエイプリルが、
エイプリル「…でも、誰を呼ぶの?」
と、興味なさげに答えると、メイは悪戯っぽく笑った。
エイプリル「そ・れ・は…、いつもボクやジョニーが戦ってる人達を呼ぶ……、なんてどうかな?♪」
エイプリル「確かに楽しそうだけど……、どうやって?絶対にこなそうな人とかどうするの?」
そこまでは考えていなかったのか、
メイ「う~~ん、どうやってって……。」
メイが固まってしまったのを見て、急にジュライが立上がり…。
ジュライ「その案、楽しそうだし、良いと思うぜ!!イヤだと言ったら力ずくでも連れて来るさ!!」
セフィー「そうですよぉ~♪必ず連れて来て見せますぅ~~。」
エイプリル「う~ん、そこまで言うんだったらやってみますか♪ただし!!ぜ~~~ったい!ジョニーには内緒だからね♪
じゃあ役割を決めるよ?
まず~。リープさんは当日の料理とマーチちゃんの面倒を担当して下さい♪」
リープ「私にゃそのくらいしか出来ないしねぇ。」
エイプリル「私は招待状を作ったり、会場をセッティングしたり……、まぁ、ひらたく言えば雑用ね♪
メイは……。」
メイ「あっ!ボクはちょっと用事があるんだぁ~。アハハ……。」エイプリル「なんか企んでるでしょ?
ふぅ…、まぁいいや、じゃあメイと新人のディズィーはフリーね?残りはみんな招待状持って呼び掛けて来て。」
メイ「ありがと♪なんだかわくわくしてきたね☆」
エイプリル「そうだね♪
じゃあ来週のパーティに向けて…、作戦開始っ!!」
みんな「おーっ!!」
ジュライ「エイプリル~~。持って行く招待状書けたぁ~~?」
船内に鳴り響くほどの大きな声を発しながら、ジュライがエイプリルの部屋に入り込んで来た…。
エイプリル「もぅ~、声が大きいよぉ~。ジョニーにばれたらどうするつもりなの?」
ジュライ「あっ!?忘れてた…。」
そういってすまなそうに頭を掻く仕種…。
エイプリル「ふぅ…、気をつけてよね~?
…もう少しで完成するから、待ってて♪」
ジュライ「そっか♪頼りにしてるぜ。でも本当にあいつら来るのかぁ~?」
エイプリル「ふふっ♪この『情報通のエイプリル』さんにまっかせなさい!!
相手の弱点・好物・趣味などすべて調べ上げてあるんだから!!」ジュライ「アハハ……、すごいな。気になるけど、どうやって調べたかは敢えて聞かないでおくよ……。」
――。
――――。
―――――――。
エイプリル「でっきたぁ~!じゃあこれをちゃんと頼んだとうりの団員に運んでもらってね?」
ジュライ「了解っ!じゃあ行って来るぜ!!会場の用意の方は頼んだからなぁ~?」
そう言って部屋を飛び出そうとした瞬間…。
――ドンッ!!――
運悪く、エイプリルと航海の打ち合わせに来たジョニーに激突してしまった。
ジョニー「おぅ、ジュライ。
どうしたぁ、そんなに急いで?」
ジュライ「エ……、あっ!あの‥、その」
エイプリル「ジっ、ジョニーが来たから、嬉しくて抱き付いちゃったんだよね?」
ジュライ「そっ!そうなんだよ~♪ごめんな?」
ジョニー「オイオイ、謝らないでくれよ。
レディーに抱き締められるなんてアクシデントはぁ、常時受け付け中だからな。
どうだい、このまま俺とデンジャラスな一夜を共にしようじゃないか?」
ジュライ「いや…っ!急いでるからさっ!!また今度な♪
じゃあ、エイプリル、例の物渡しとくからなぁ!!」
ジョニーの横を擦り抜け、猛然と走りさって行ってしまった……。ジョニー「例の物?」エイプリル「気にしない♪気にしない♪」
ジョニー「むぅ…。」
ジャニス「うにゃあ?」
先程完成した招待状をジャニスの首にスカーフで巻き付け、頭を一撫でした。
ジュライ「では、エイプリルの伝言を伝えます!
え~~っと…、『出来るだけ挑発するように逃げて♪ぎりぎりまで逃げてから捕まるんだよ☆☆』……、だそうです。」
そう言いながら、緊急脱出用のポッドにジャニスを押し込む……。
ジュライ「じゃ、ぐっどらっく!!」
―――バシュンッ!!
ジャニス「うにゃぁぁぁああ!!!!?」
―――。
――――。
――――――。
ここは、フランスの寂れた田舎町の中――。
ジャニス(痛たかったぁ~!ったく!!私をなんだと思ってるのかしら!?)
無事{?}不時着出来たポッドからやっとの思いで飛び出して、今は町中を歩いている……。
ジャニス(確かターゲットはここら辺に良く現れるって言ってたはず。え~と、金髪の細身で綺麗な方らしいわね。
でもなんで私が運ぶ役に選ばれたんだろう……?)
「あら…、可愛いねこちゃん…。」
ジャニス「うにゃっ!(きゃっ!)」
背後からいきなり声が聞こえ、思わず距離を取ってしまった。
ミリア「私の名前はミリア…、あなたは…、野良さん、かな…?」
ジャニス「…にゃ?(この人……、金髪で綺麗…。もしかしてターゲット!?この人から逃げれば任務完了かな?でも人間相手にこの私が捕まるわけ無いじゃない♪簡単な任務だわね。)」
ミリア「ほら…、こっちにおいで?」
ジャニス「にゃにゃにゃっ!(捕まえれるもんなら、捕まえてみなさ~い♪)」
――タッタッタッ…。
ミリア「あっ!待って、ねこちゃん。」
ジャニス(あら、いっちょまえに追いかけて来てるじゃない♪
まぁ、軽く走って途中で捕まれば良いわね。)
―――3分後。―――
シュタタタタタタタタタタタタタッッ!!。
ジャニス(はぁ、はぁ、はぁ…、もうとっくに本気モードなのに、なんであの人ついてこれるの!?まさか人間じゃない?)
ミリア「……あっ。」
ジャニス(ふぅ…、やっとまいたみたいね……。って!?捕まらないといけないこと、すっかり忘れてた!!)
――ストッ……――。
ジャニス(ふぅ、どうしようかなぁ……。)
―――ヒョイ。
急に中に浮く体。
ジャニス(に゛ゃっ!?)
ミリア「ねこちゃん…、捕まえた……♪」
振り返ると、いつのまにかにさっきの人が私を抱き上げていた。
ジャニス(全然気がつかなかった…。完璧に私の負けだわ…。
あっ!そういえば任務が!)
さりげなくスカーフをアピールする。
ミリア「あら…、何かしら…。」
しばらくこの人は招待状を読んでいた…。
ミリア「なるほど…、こうゆう雰囲気に慣れるには良い機会かもね…。」
どうやら読み終わったようだ……。
ジャニス「にゃあ?」ミリア「ううん、なんでも無い…。
行こっか、ねこちゃん…。」
ジャニス「うにゃあ♪」
梅喧「…ん?俺になんか用が有るのか?」
オクティ「え…、あの、その…。
これをご覧下さい…。」
梅喧「なんだい?こりゃあ?」
オクティ「えと…、ジョニーさんの誕生パーティーの招待状です。」
梅喧「ほぅ…。
でも…、俺こうゆうのは苦手なんだよなぁ。あいつを祝う義理もないし…またの機会にしてくれよ。」
オクティ「あの…、美味しいお刺身とお酒が振る舞われる予定なんですが…、その…残念です…。」
チップ「さしみ!?本当か?あのジャパニーズがことあるごとに食べるあれか!?
…おんなぁ!嘘だったらただじゃすまないぜ!?」
オクティ「そ、そんなぁ…、本当です…。」チップ「なぁ姐さん!行こうぜっ!!
ところで闇慈!さしみってどうやって食べるんだ?あぁ~今からワクワクするぜ!!」
闇慈「刺身はなぁ~、いろいろな食べ方があるんだが…、やっぱり『女体盛り』ってやつが一番だねぇ~♪」
チップ「ニョタイモリ!?なんだそりゃあ?」
闇慈「まぁ姐さんが教えてくれるさ!
ってことで一つ姐さん、よろしく頼む……ぐふっ!!!」
梅喧「小僧に変な事吹き込むな!!それに…姐さんって呼ぶなったろうが!!
しっかし…酒かぁ、良いねぇ。行くか…。
行くからにゃあ極上もん出さなかったら承知しないよ?」
オクティ「はい!…良かった。これで私も帰れます…」
闇慈「おっ!姐さんが行くならお供しますっ!!」
梅喧「だから…、姐さんって呼ぶなっっ!!」
エイプリル「さて、今週の議題は…、」
進行役のエイプリルが話を始めると、すかさずメイが手を上げ、
メイ「ジョニーの誕生パーティについて~っ☆☆」
エイプリル「ふぅ…。はいはい、わかったから落ち着いて…。」
メイ「むぅぅ~~。だってその日はボクにとって、とーーっっても大事な日なんだよ!?」
ジュライ「゛みんな″にとっても、だろ?」
ジュライに指摘され、メイは少し照れて赤くなりながら。
メイ「……、そうだったね。ごめん。でもどうしよう…、
ジョニーどんなのが喜ぶかなぁ?」
――。
―――。
____。
しばらく続いた沈黙の後に、何かを閃いたかの用にメイが提案を出した…。
メイ「こんなのはどうかな♪ジョニーって賑やかなのが好きじゃない?ボクたちだけでやるのも楽しいけどさ、もっとおおぜい呼んだらも~っと楽しそうだと思うの♪」
机に突伏したままの体勢でエイプリルが、
エイプリル「…でも、誰を呼ぶの?」
と、興味なさげに答えると、メイは悪戯っぽく笑った。
エイプリル「そ・れ・は…、いつもボクやジョニーが戦ってる人達を呼ぶ……、なんてどうかな?♪」
エイプリル「確かに楽しそうだけど……、どうやって?絶対にこなそうな人とかどうするの?」
そこまでは考えていなかったのか、
メイ「う~~ん、どうやってって……。」
メイが固まってしまったのを見て、急にジュライが立上がり…。
ジュライ「その案、楽しそうだし、良いと思うぜ!!イヤだと言ったら力ずくでも連れて来るさ!!」
セフィー「そうですよぉ~♪必ず連れて来て見せますぅ~~。」
エイプリル「う~ん、そこまで言うんだったらやってみますか♪ただし!!ぜ~~~ったい!ジョニーには内緒だからね♪
じゃあ役割を決めるよ?
まず~。リープさんは当日の料理とマーチちゃんの面倒を担当して下さい♪」
リープ「私にゃそのくらいしか出来ないしねぇ。」
エイプリル「私は招待状を作ったり、会場をセッティングしたり……、まぁ、ひらたく言えば雑用ね♪
メイは……。」
メイ「あっ!ボクはちょっと用事があるんだぁ~。アハハ……。」エイプリル「なんか企んでるでしょ?
ふぅ…、まぁいいや、じゃあメイと新人のディズィーはフリーね?残りはみんな招待状持って呼び掛けて来て。」
メイ「ありがと♪なんだかわくわくしてきたね☆」
エイプリル「そうだね♪
じゃあ来週のパーティに向けて…、作戦開始っ!!」
みんな「おーっ!!」
ジュライ「エイプリル~~。持って行く招待状書けたぁ~~?」
船内に鳴り響くほどの大きな声を発しながら、ジュライがエイプリルの部屋に入り込んで来た…。
エイプリル「もぅ~、声が大きいよぉ~。ジョニーにばれたらどうするつもりなの?」
ジュライ「あっ!?忘れてた…。」
そういってすまなそうに頭を掻く仕種…。
エイプリル「ふぅ…、気をつけてよね~?
…もう少しで完成するから、待ってて♪」
ジュライ「そっか♪頼りにしてるぜ。でも本当にあいつら来るのかぁ~?」
エイプリル「ふふっ♪この『情報通のエイプリル』さんにまっかせなさい!!
相手の弱点・好物・趣味などすべて調べ上げてあるんだから!!」ジュライ「アハハ……、すごいな。気になるけど、どうやって調べたかは敢えて聞かないでおくよ……。」
――。
――――。
―――――――。
エイプリル「でっきたぁ~!じゃあこれをちゃんと頼んだとうりの団員に運んでもらってね?」
ジュライ「了解っ!じゃあ行って来るぜ!!会場の用意の方は頼んだからなぁ~?」
そう言って部屋を飛び出そうとした瞬間…。
――ドンッ!!――
運悪く、エイプリルと航海の打ち合わせに来たジョニーに激突してしまった。
ジョニー「おぅ、ジュライ。
どうしたぁ、そんなに急いで?」
ジュライ「エ……、あっ!あの‥、その」
エイプリル「ジっ、ジョニーが来たから、嬉しくて抱き付いちゃったんだよね?」
ジュライ「そっ!そうなんだよ~♪ごめんな?」
ジョニー「オイオイ、謝らないでくれよ。
レディーに抱き締められるなんてアクシデントはぁ、常時受け付け中だからな。
どうだい、このまま俺とデンジャラスな一夜を共にしようじゃないか?」
ジュライ「いや…っ!急いでるからさっ!!また今度な♪
じゃあ、エイプリル、例の物渡しとくからなぁ!!」
ジョニーの横を擦り抜け、猛然と走りさって行ってしまった……。ジョニー「例の物?」エイプリル「気にしない♪気にしない♪」
ジョニー「むぅ…。」
ジャニス「うにゃあ?」
先程完成した招待状をジャニスの首にスカーフで巻き付け、頭を一撫でした。
ジュライ「では、エイプリルの伝言を伝えます!
え~~っと…、『出来るだけ挑発するように逃げて♪ぎりぎりまで逃げてから捕まるんだよ☆☆』……、だそうです。」
そう言いながら、緊急脱出用のポッドにジャニスを押し込む……。
ジュライ「じゃ、ぐっどらっく!!」
―――バシュンッ!!
ジャニス「うにゃぁぁぁああ!!!!?」
―――。
――――。
――――――。
ここは、フランスの寂れた田舎町の中――。
ジャニス(痛たかったぁ~!ったく!!私をなんだと思ってるのかしら!?)
無事{?}不時着出来たポッドからやっとの思いで飛び出して、今は町中を歩いている……。
ジャニス(確かターゲットはここら辺に良く現れるって言ってたはず。え~と、金髪の細身で綺麗な方らしいわね。
でもなんで私が運ぶ役に選ばれたんだろう……?)
「あら…、可愛いねこちゃん…。」
ジャニス「うにゃっ!(きゃっ!)」
背後からいきなり声が聞こえ、思わず距離を取ってしまった。
ミリア「私の名前はミリア…、あなたは…、野良さん、かな…?」
ジャニス「…にゃ?(この人……、金髪で綺麗…。もしかしてターゲット!?この人から逃げれば任務完了かな?でも人間相手にこの私が捕まるわけ無いじゃない♪簡単な任務だわね。)」
ミリア「ほら…、こっちにおいで?」
ジャニス「にゃにゃにゃっ!(捕まえれるもんなら、捕まえてみなさ~い♪)」
――タッタッタッ…。
ミリア「あっ!待って、ねこちゃん。」
ジャニス(あら、いっちょまえに追いかけて来てるじゃない♪
まぁ、軽く走って途中で捕まれば良いわね。)
―――3分後。―――
シュタタタタタタタタタタタタタッッ!!。
ジャニス(はぁ、はぁ、はぁ…、もうとっくに本気モードなのに、なんであの人ついてこれるの!?まさか人間じゃない?)
ミリア「……あっ。」
ジャニス(ふぅ…、やっとまいたみたいね……。って!?捕まらないといけないこと、すっかり忘れてた!!)
――ストッ……――。
ジャニス(ふぅ、どうしようかなぁ……。)
―――ヒョイ。
急に中に浮く体。
ジャニス(に゛ゃっ!?)
ミリア「ねこちゃん…、捕まえた……♪」
振り返ると、いつのまにかにさっきの人が私を抱き上げていた。
ジャニス(全然気がつかなかった…。完璧に私の負けだわ…。
あっ!そういえば任務が!)
さりげなくスカーフをアピールする。
ミリア「あら…、何かしら…。」
しばらくこの人は招待状を読んでいた…。
ミリア「なるほど…、こうゆう雰囲気に慣れるには良い機会かもね…。」
どうやら読み終わったようだ……。
ジャニス「にゃあ?」ミリア「ううん、なんでも無い…。
行こっか、ねこちゃん…。」
ジャニス「うにゃあ♪」
梅喧「…ん?俺になんか用が有るのか?」
オクティ「え…、あの、その…。
これをご覧下さい…。」
梅喧「なんだい?こりゃあ?」
オクティ「えと…、ジョニーさんの誕生パーティーの招待状です。」
梅喧「ほぅ…。
でも…、俺こうゆうのは苦手なんだよなぁ。あいつを祝う義理もないし…またの機会にしてくれよ。」
オクティ「あの…、美味しいお刺身とお酒が振る舞われる予定なんですが…、その…残念です…。」
チップ「さしみ!?本当か?あのジャパニーズがことあるごとに食べるあれか!?
…おんなぁ!嘘だったらただじゃすまないぜ!?」
オクティ「そ、そんなぁ…、本当です…。」チップ「なぁ姐さん!行こうぜっ!!
ところで闇慈!さしみってどうやって食べるんだ?あぁ~今からワクワクするぜ!!」
闇慈「刺身はなぁ~、いろいろな食べ方があるんだが…、やっぱり『女体盛り』ってやつが一番だねぇ~♪」
チップ「ニョタイモリ!?なんだそりゃあ?」
闇慈「まぁ姐さんが教えてくれるさ!
ってことで一つ姐さん、よろしく頼む……ぐふっ!!!」
梅喧「小僧に変な事吹き込むな!!それに…姐さんって呼ぶなったろうが!!
しっかし…酒かぁ、良いねぇ。行くか…。
行くからにゃあ極上もん出さなかったら承知しないよ?」
オクティ「はい!…良かった。これで私も帰れます…」
闇慈「おっ!姐さんが行くならお供しますっ!!」
梅喧「だから…、姐さんって呼ぶなっっ!!」
嬉しい出来事があると自然と進む足取りも軽くなる。通りかかった公園で無邪気に遊ぶ子ども達の姿に微笑ましく目を細めたその時、
「あーっ! 見つけたカイさーん!!」
通りの向こう側から聞き覚えのある甲高い声が響き渡った。街の往来で大声で名前を呼ばれたことに多少の気恥ずかしさを感じつつ、声の聞こえた方向へと振り返ってみると、
「メイさんに、ディズィーさん…?」
駆け寄ってくる2人の少女の姿に瞠目した。いつも行く先知れず気儘に空の旅を楽しんでいる筈の彼女たちが何故ここに?
…答えはすぐに出た。
「カイさん、お誕生日おめでとー!」
「おめでとうございます、カイさん」
走ってきた2人は急ブレーキでカイの前に並んで立つと、揃って明るく祝いの言葉を告げた。
思いがけない場所でであった少女らの、これまた思いがけない祝いの言葉にカイは驚きの表情を隠せない。
カイが固まっていることに気付いているのかいないのか、メイは少女らしいテンションの高さで肩に提げていた大きなバッグの中からクッション大の包みを取り出し、カイへと差し出した。
「はいコレ、ボクとディズィーとジョニーと、それからジェリーフィッシュ快賊団の皆からのプレゼント!」
「えっ、あ、はい、有難うございます…、うわっ?」
促されるままに受け取って、思いがけない重さに危うく一瞬包みを取り落としそうになってしまった。どうやら沢山の品々を一気に包装したものらしい。抱えてみた感じ、重量は悠に5kgはある。目の前の少女はそれこそクッションでも持ち上げるように軽々と取り扱って見せたが、よくよく考えてみれば彼女は総重 300kgある巨大な錨さえ片手で楽々振り回すほどの怪力の持ち主だ。たかだか5kg程度の包みなど、それこそ紙1枚にも等しい程度であるのだろう。…なんだか微妙に複雑ではある。
「こんなわざわざ…有難うございます」
地上に降りた理由は何もカイにプレゼントを渡すためだけではないだろうが、それでも嬉しいことには変わりない。カイは満面の笑みを浮かべ、プレゼンターの少女たちに深々と頭を垂れた。
「あーっ! 見つけたカイさーん!!」
通りの向こう側から聞き覚えのある甲高い声が響き渡った。街の往来で大声で名前を呼ばれたことに多少の気恥ずかしさを感じつつ、声の聞こえた方向へと振り返ってみると、
「メイさんに、ディズィーさん…?」
駆け寄ってくる2人の少女の姿に瞠目した。いつも行く先知れず気儘に空の旅を楽しんでいる筈の彼女たちが何故ここに?
…答えはすぐに出た。
「カイさん、お誕生日おめでとー!」
「おめでとうございます、カイさん」
走ってきた2人は急ブレーキでカイの前に並んで立つと、揃って明るく祝いの言葉を告げた。
思いがけない場所でであった少女らの、これまた思いがけない祝いの言葉にカイは驚きの表情を隠せない。
カイが固まっていることに気付いているのかいないのか、メイは少女らしいテンションの高さで肩に提げていた大きなバッグの中からクッション大の包みを取り出し、カイへと差し出した。
「はいコレ、ボクとディズィーとジョニーと、それからジェリーフィッシュ快賊団の皆からのプレゼント!」
「えっ、あ、はい、有難うございます…、うわっ?」
促されるままに受け取って、思いがけない重さに危うく一瞬包みを取り落としそうになってしまった。どうやら沢山の品々を一気に包装したものらしい。抱えてみた感じ、重量は悠に5kgはある。目の前の少女はそれこそクッションでも持ち上げるように軽々と取り扱って見せたが、よくよく考えてみれば彼女は総重 300kgある巨大な錨さえ片手で楽々振り回すほどの怪力の持ち主だ。たかだか5kg程度の包みなど、それこそ紙1枚にも等しい程度であるのだろう。…なんだか微妙に複雑ではある。
「こんなわざわざ…有難うございます」
地上に降りた理由は何もカイにプレゼントを渡すためだけではないだろうが、それでも嬉しいことには変わりない。カイは満面の笑みを浮かべ、プレゼンターの少女たちに深々と頭を垂れた。
流れ星の記憶(前編)
Written by koyomi kasuga
――――忘れないで、こうして過ごしたコト
忘れない……それだけで『繋がってく』から――――
『――キレイよねー……ねぇ?』
『――別に。あれは流星物質が地球の大気中に飛び込んできて、大気との摩擦で光って見えてるだけのことだろ。』
『もう、貴方ってどうしてそう夢の無い言い方するの?せっかくの休みなのに。』
『事実だろ。それに仕事柄、そんな考え方ができん。』
『分かったわよ……でも、一つだけ覚えておいて。』
『何をだ?』
『忘れないで、こうして過ごしたコト。こうして……ここで流れ星を見たこと。』
『他のことは忘れてもいいのか?』
『貴方が必要と感じてなければね。でも、今日こうして過ごしたことは忘れないで。
必要でも不要でも……忘れなければそれだけで、私は嬉しいから。』
――――それだけで『繋がってく』から――――
「……あ?」
それを境にソルは現実へと引き戻される。
どうやら夢を見ていたようである。
ソルは起き上がり面倒くさそうに朝食の支度をする。
それはいつもと変わらない、ただ一つ……今見た夢以外は。
「……くだらねぇ。」
ソルは誰にともなく、呟いた。
それが自分になのか、夢に出てきた相手になのかは分からないが。
「……何だって今頃戻ってきやがったんだ。」
記憶――そんなものは必要なものだけ残していけばいい。
不要なら切り離していけばいい。
でないと、混乱して真実を見失う。
だからソルはそうして今まで生き続けてきた。
『忘れないで』そう言われたけど、忘れていた……いや、忘れたのだ。
その自分が何故今になってそれを思い出すのか、ソルには全く理解出来なかった。
ソルはコーヒーを飲みほすと何事も無かったかのように食器を片付け始めた。
そうしていつものように街へと出かけた。
一方、MAYSHIP船内。
「――流星群?」
「うん、毎年この時期になると起きる現象なの。」
朝食の後片付けの当番であるディズィーに同じく当番のジュンが楽しそうに話す。
ディズィーは興味津々といった感じで聴いている。
そこへ側にいたマーチが間を割って喋る。
「でも、まーちはいっかいもみたことないからちゅまんないでし。」
「それはマーチが途中で寝ちゃうからでしょ?何度も起こしたのに起きないから。」
マーチがぷうっと顔を膨らませてご機嫌ナナメの顔をする。
苦笑するディズィーとジュン。
「ねぇジュン、流星群ってそんなに遅い時間から始まるの?」
「うん、きっちり時間が決まってるわけじゃないんだけど大体夜中から明け方にかけてなのよ。」
それでディズィーは納得がいった。
マーチはジェリーフィッシュ快賊団の中では最年少、どうしても襲ってくる眠気には勝てないのだ。
だから意気込んで待っていても途中で寝てしまうのだろう。
「そっかーそれじゃあマーチ、今年は頑張らなくっちゃね。」
「うん!ことしこしょぜったいみゆんだから!!」
舌ったらずながらも意志は強いマーチ。
そんなマーチをディズィーは微笑ましく思った。
それから程なくして食器を片付けたディズィーは甲板に出て空を眺めていた。
「……流れ星、か。」
ディズィーは静かに目を閉じ、育ててくれた老夫婦のことを思い出していた。
ほんの少しの時間しか一緒に居られなかったけど、楽しかった。
よく夜空を見ては流れ星が落ちてこないか、とねだって聞いたものだ。
“流れ星が消える前に願い事を三回言うと叶う”……誰もがよく知っているジンクスだ。
そのジンクスにいくつ願いを叶えて欲しいと思ったことか。
「……ソルさん……お願いしたら一緒に見てくれるかな?」
「「誰と一緒に見るって?」」
「はぇえ!?」
背後からの声に驚き、思わず変な声を出すディズィー。
振り向いてみるとにやにやしながらディズィーを見るメイとジョニー。
「ふっふっふー……見たぞ~ディズィーの乙女模様。」
「ふえ?」
「とぼけなさんなって、アイツのこと考えてたんだろ?」
「あいつって……?」
ほえ?と首を傾げるディズィーに二人は顔を見合わせる。
メイが腰に手を当ててびしっと人差し指をディズィーに突きつける。
「だぁから、ソルのことだって。」
「えー!?なんで二人とも分かるんですか?ソルさんのことって。すごい!テレパシーみたいです!」
素直に驚くディズィーに二人は呆然としていた。
どうやら二人が思っていたほどディズィーは勘が良いわけではないようだ。
ディズィーはそのままジョニーに話しかける。
「あの、ジョニーさん。流星群って今日見れるんですか?」
「ん?ああ、予想では今日って言われてるがな……誘いたいヤツでもいたかな?」
深い笑みを浮かべてジョニーは目線をディズィーの高さに合わせる。
ディズィーはその言葉に言い出しにくそうに両手をもじもじさせていた。
ジョニーはその仕草を微笑ましく思いながら、ディズィーの頭をぽんぽん、とたたく。
「どうしたいかはお前さんが決めな。そいつを連れてくるもよし、一緒に別の場所で見るもよしだ。
ただし、ちゃんと相手に了解を取ったらな。」
ジョニーがそう言うとディズィーはぱっと表情を明るくし、
「はい!ありがとうございます!」
と言って甲板の手すりを乗り越えて街へと降りる。
もちろん、両の翼を広げて。
それを見送るジョニーにメイが上目遣いで聞く。
「……ジョニー、ボクもジョニーと二人っきりで見たいなv」
「ダァメ!オマエさん一人をひいきするわけにはいかないの。」
「意地悪っ!」
「残念でした。」
ジョニーは笑いながら下の街を眺めていた。
――さぁて、アンタはどう対応するのかね?
ジョニーはサングラスを直しながら実に楽しそうに笑っていた。
まるで悪戯を仕掛けた子供のように。
所変わってパリ。
「ま、大体こんなもんか。」
ソルは仕事を終え、賞金首を差し出し換金をし終えたところだった。
後は食料の調達をして帰るだけだ。
そうして店に向かおうとしていた矢先に壁に貼ってあったポスターに目がいった。
そこには流星群のイメージイラストとそれを見るための道具の宣伝が書いてあった。
「……だからか。」
さっきから街の人達は望遠鏡やら防寒具を持った人達でにぎわっていた。
流星群を見るための準備だろう。
ひょっとしたら今日あんな夢を見たのもそのせいかもしれない。
そう思って踵を返すと少し先に見覚えのある少女、ディズィーの姿。
「あ、ソルさん!よかった、お会いできて。」
「――何か用か?」
あんまりいい予感しない、と思いつつソルは返事をする。
「あの!今日、流星群見るんですけど良かったら一緒に見ませんか?」
「……騒がしいのは嫌ぇだ。」
「えっと……あの、皆と一緒じゃなくても……あの、その///」
「――テメェと二人で、か?」
そのストレートな言葉にディズィーは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも頷く。
しかし、ソルは溜息一つ。
「――ガキのお守りは御免だ。第一、テメェんとこの保護者が許すわけねぇだろうが。」
「え、あ……それならジョニーさん、いいって言って下さいましたよ?」
――あのヤロウ……楽しんでやがるな。
ソルはジョニーの嫌味な笑みが思い出され、心の中で舌打ちをした。
どうせ、自分が対処に困るのを見越してのことだろう。
「やっぱり、私なんかと一緒じゃ……イヤですか?」
ディズィーはそう言って真っ直ぐにソルの目を見る。
どうもこの眼がソルは苦手である。
身長差がある、という所為もあるだろうが、この上目遣いがどうも今までの連中と違うので調子が狂う上に対処がしづらい。
喩えて言うなら遊んで欲しいとねだった子犬が答えを渋られて落ち込んでいるような感じ。
彼女の場合それを無意識に行うので、なお厄介。
「……テメェんとこの船、何処に停泊するんだ?」
「! 一緒に見てくださるんですか!?」
「――嫌なら止めておくが?」
その言葉にディズィーはぶんぶん、と首を振って否定する。
そんな姿も小動物のようで可愛らしい。
「ありがとうございます!///」
ディズィーは嬉しそうにし、ソルに時間になったら家に向かうと約束した。
ソルは最初それは止めた方がいい、と言って自分が迎えに行くことを提案した。
しかし、ディズィーは頼み事を自分でしておいてそこまでしてもらうのは悪いと言って断った。
それ以上は言っても無駄と思ったソルは仕方なくそれを承知した。
「それじゃ、ソルさん。また後で。」
「……ああ。」
そして、日は落ち……月と星々が目覚め始める。
Written by koyomi kasuga
――――忘れないで、こうして過ごしたコト
忘れない……それだけで『繋がってく』から――――
『――キレイよねー……ねぇ?』
『――別に。あれは流星物質が地球の大気中に飛び込んできて、大気との摩擦で光って見えてるだけのことだろ。』
『もう、貴方ってどうしてそう夢の無い言い方するの?せっかくの休みなのに。』
『事実だろ。それに仕事柄、そんな考え方ができん。』
『分かったわよ……でも、一つだけ覚えておいて。』
『何をだ?』
『忘れないで、こうして過ごしたコト。こうして……ここで流れ星を見たこと。』
『他のことは忘れてもいいのか?』
『貴方が必要と感じてなければね。でも、今日こうして過ごしたことは忘れないで。
必要でも不要でも……忘れなければそれだけで、私は嬉しいから。』
――――それだけで『繋がってく』から――――
「……あ?」
それを境にソルは現実へと引き戻される。
どうやら夢を見ていたようである。
ソルは起き上がり面倒くさそうに朝食の支度をする。
それはいつもと変わらない、ただ一つ……今見た夢以外は。
「……くだらねぇ。」
ソルは誰にともなく、呟いた。
それが自分になのか、夢に出てきた相手になのかは分からないが。
「……何だって今頃戻ってきやがったんだ。」
記憶――そんなものは必要なものだけ残していけばいい。
不要なら切り離していけばいい。
でないと、混乱して真実を見失う。
だからソルはそうして今まで生き続けてきた。
『忘れないで』そう言われたけど、忘れていた……いや、忘れたのだ。
その自分が何故今になってそれを思い出すのか、ソルには全く理解出来なかった。
ソルはコーヒーを飲みほすと何事も無かったかのように食器を片付け始めた。
そうしていつものように街へと出かけた。
一方、MAYSHIP船内。
「――流星群?」
「うん、毎年この時期になると起きる現象なの。」
朝食の後片付けの当番であるディズィーに同じく当番のジュンが楽しそうに話す。
ディズィーは興味津々といった感じで聴いている。
そこへ側にいたマーチが間を割って喋る。
「でも、まーちはいっかいもみたことないからちゅまんないでし。」
「それはマーチが途中で寝ちゃうからでしょ?何度も起こしたのに起きないから。」
マーチがぷうっと顔を膨らませてご機嫌ナナメの顔をする。
苦笑するディズィーとジュン。
「ねぇジュン、流星群ってそんなに遅い時間から始まるの?」
「うん、きっちり時間が決まってるわけじゃないんだけど大体夜中から明け方にかけてなのよ。」
それでディズィーは納得がいった。
マーチはジェリーフィッシュ快賊団の中では最年少、どうしても襲ってくる眠気には勝てないのだ。
だから意気込んで待っていても途中で寝てしまうのだろう。
「そっかーそれじゃあマーチ、今年は頑張らなくっちゃね。」
「うん!ことしこしょぜったいみゆんだから!!」
舌ったらずながらも意志は強いマーチ。
そんなマーチをディズィーは微笑ましく思った。
それから程なくして食器を片付けたディズィーは甲板に出て空を眺めていた。
「……流れ星、か。」
ディズィーは静かに目を閉じ、育ててくれた老夫婦のことを思い出していた。
ほんの少しの時間しか一緒に居られなかったけど、楽しかった。
よく夜空を見ては流れ星が落ちてこないか、とねだって聞いたものだ。
“流れ星が消える前に願い事を三回言うと叶う”……誰もがよく知っているジンクスだ。
そのジンクスにいくつ願いを叶えて欲しいと思ったことか。
「……ソルさん……お願いしたら一緒に見てくれるかな?」
「「誰と一緒に見るって?」」
「はぇえ!?」
背後からの声に驚き、思わず変な声を出すディズィー。
振り向いてみるとにやにやしながらディズィーを見るメイとジョニー。
「ふっふっふー……見たぞ~ディズィーの乙女模様。」
「ふえ?」
「とぼけなさんなって、アイツのこと考えてたんだろ?」
「あいつって……?」
ほえ?と首を傾げるディズィーに二人は顔を見合わせる。
メイが腰に手を当ててびしっと人差し指をディズィーに突きつける。
「だぁから、ソルのことだって。」
「えー!?なんで二人とも分かるんですか?ソルさんのことって。すごい!テレパシーみたいです!」
素直に驚くディズィーに二人は呆然としていた。
どうやら二人が思っていたほどディズィーは勘が良いわけではないようだ。
ディズィーはそのままジョニーに話しかける。
「あの、ジョニーさん。流星群って今日見れるんですか?」
「ん?ああ、予想では今日って言われてるがな……誘いたいヤツでもいたかな?」
深い笑みを浮かべてジョニーは目線をディズィーの高さに合わせる。
ディズィーはその言葉に言い出しにくそうに両手をもじもじさせていた。
ジョニーはその仕草を微笑ましく思いながら、ディズィーの頭をぽんぽん、とたたく。
「どうしたいかはお前さんが決めな。そいつを連れてくるもよし、一緒に別の場所で見るもよしだ。
ただし、ちゃんと相手に了解を取ったらな。」
ジョニーがそう言うとディズィーはぱっと表情を明るくし、
「はい!ありがとうございます!」
と言って甲板の手すりを乗り越えて街へと降りる。
もちろん、両の翼を広げて。
それを見送るジョニーにメイが上目遣いで聞く。
「……ジョニー、ボクもジョニーと二人っきりで見たいなv」
「ダァメ!オマエさん一人をひいきするわけにはいかないの。」
「意地悪っ!」
「残念でした。」
ジョニーは笑いながら下の街を眺めていた。
――さぁて、アンタはどう対応するのかね?
ジョニーはサングラスを直しながら実に楽しそうに笑っていた。
まるで悪戯を仕掛けた子供のように。
所変わってパリ。
「ま、大体こんなもんか。」
ソルは仕事を終え、賞金首を差し出し換金をし終えたところだった。
後は食料の調達をして帰るだけだ。
そうして店に向かおうとしていた矢先に壁に貼ってあったポスターに目がいった。
そこには流星群のイメージイラストとそれを見るための道具の宣伝が書いてあった。
「……だからか。」
さっきから街の人達は望遠鏡やら防寒具を持った人達でにぎわっていた。
流星群を見るための準備だろう。
ひょっとしたら今日あんな夢を見たのもそのせいかもしれない。
そう思って踵を返すと少し先に見覚えのある少女、ディズィーの姿。
「あ、ソルさん!よかった、お会いできて。」
「――何か用か?」
あんまりいい予感しない、と思いつつソルは返事をする。
「あの!今日、流星群見るんですけど良かったら一緒に見ませんか?」
「……騒がしいのは嫌ぇだ。」
「えっと……あの、皆と一緒じゃなくても……あの、その///」
「――テメェと二人で、か?」
そのストレートな言葉にディズィーは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも頷く。
しかし、ソルは溜息一つ。
「――ガキのお守りは御免だ。第一、テメェんとこの保護者が許すわけねぇだろうが。」
「え、あ……それならジョニーさん、いいって言って下さいましたよ?」
――あのヤロウ……楽しんでやがるな。
ソルはジョニーの嫌味な笑みが思い出され、心の中で舌打ちをした。
どうせ、自分が対処に困るのを見越してのことだろう。
「やっぱり、私なんかと一緒じゃ……イヤですか?」
ディズィーはそう言って真っ直ぐにソルの目を見る。
どうもこの眼がソルは苦手である。
身長差がある、という所為もあるだろうが、この上目遣いがどうも今までの連中と違うので調子が狂う上に対処がしづらい。
喩えて言うなら遊んで欲しいとねだった子犬が答えを渋られて落ち込んでいるような感じ。
彼女の場合それを無意識に行うので、なお厄介。
「……テメェんとこの船、何処に停泊するんだ?」
「! 一緒に見てくださるんですか!?」
「――嫌なら止めておくが?」
その言葉にディズィーはぶんぶん、と首を振って否定する。
そんな姿も小動物のようで可愛らしい。
「ありがとうございます!///」
ディズィーは嬉しそうにし、ソルに時間になったら家に向かうと約束した。
ソルは最初それは止めた方がいい、と言って自分が迎えに行くことを提案した。
しかし、ディズィーは頼み事を自分でしておいてそこまでしてもらうのは悪いと言って断った。
それ以上は言っても無駄と思ったソルは仕方なくそれを承知した。
「それじゃ、ソルさん。また後で。」
「……ああ。」
そして、日は落ち……月と星々が目覚め始める。
アクセルは落下していた。
「だあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
タイムスリップは毎度の事だが、今回は極めて不幸なパターンだった。
よりにもよって、地上十数メートルといった場所にたどり着いてしまったのである。
視界に移るのは深い森。運が良ければ青々とした葉が、枝がクッションとなってくれるだろう。
運が悪かった時のことは考えたくない。
アクセルはとっさに法力を練り上げ、体に纏う。
ぎゅうっと目をつぶり、体を丸めた。
ガサガサガサガサガサッ!!
木の葉が舞い、枝の折れる音が耳に痛い。
体に痛みはないものの、衝撃だけは殺しきれずにアクセルは奥歯を噛みしめる。
がくん、と落下が止まる。どうやら、太い枝に救われたらしい。
地面に叩きつけられることだけは避けられた。
「あ~~~~~~~もうっ!心臓に悪い……」
思わず左胸に手を当てると、ばっくんばっくんと暴れる鼓動を感じることが出来た。
それは、紛れもなく生きている証。
は~っと、安堵のため息をつこうとしたその時、
「誰ですっ!!」
大声がして、アクセルはびくんと身を大きく震わせた。ぐらりと体勢が崩れ、
そのまままっ逆さま。
「わわわわわわっ!!!」
どてっ、と今度こそ地面にキスをするハメになる。
「痛てて……」
強打した鼻を押さえ、鼻血が出てないことを幸運に思う。
アクセルはうめきながら何とか立ち上がろうと頭を振った。
と、
「あ、アクセル!?」
先程アクセルを驚かせた声が、すぐ近くで響く。
しかも、落ち着いて聞いてみればよくよく聞き覚えのある声で……
「カイちゃんっ!?」
叫びながら振り返ると、そこにはカイ=キスクその人がいた。
その後ろには、これまた見知った規格外の大男──ポチョムキンがいる。
「あらら。な~んか珍しい組み合わせ」
あまりのインパクトにアクセルは痛みを忘れ、差しのべられたカイの手をとって立ち上がった。
「そうなんですか。それでアクセルさんも一緒に来られたんですね」
くすくす、と楽しそうにディズィーが笑う。
「ホント参ったよ。いきなり落ちるんだぜぇ~」
アクセルは身振り手振りを大袈裟に、なるべく面白おかしく聞こえるように話していた。
ここはメイシップ。
カイとポチョムキンはそれぞれ警察機構とツェップの代表として、
ここに預けられたディズィーの様子を見に来る途中でアクセルと遭遇したのだという。
ディズィーを初め、快賊団の面々と顔を合わせるのは久し振りだったので、
アクセルも二人に同行させてもらうことにしたのだ。
予想外のアクセルの来訪に、ディズィーは思いのほか喜んでくれた。
「ねえねえアクセルさん、ここに来る前はどの時代にいたの?」
メイが好奇心に瞳をきらきら輝かせてアクセルに問う。
「うん。20世紀のインド。流石の俺様もインド語はしゃべれないから言葉が通じなくてさ~。
おまけに一文無しだったもんだから大変大変」
「インド?」
ディズィーが興味津々に尋ねる。
「そうそう。頭にこうやってターバンを巻いてカレーを食べる国なんだ」
「ふ~ん」
少々アクセルの偏見が入った解説ではあるが、どうせ詳しいことは分かりはしない。
こんな風に雑談をしながら、アクセルはこっそりとディズィーの笑顔を盗み見た。
その屈託の無い笑顔は、この快賊団で幸せに過ごしている証に思えた。
人間を傷つけないために姿を隠し、孤独とともに生きてきた心優しき少女。
その彼女が今、たくさんの仲間に囲まれて堂々と陽の光のもとで笑顔を見せている。
「ここで引き取ってもらって正解だったかもしれませんね」
紅茶を飲みながらカイがポチョムキンに囁いている。
そして、その言葉にポチョムキンも頷いていた。
「当たり前だ。俺はクルーを何よりも大事にしているからな」
その言葉を聞きとめたのか、ジョニーがディズィーとメイの肩を抱く。
「きゃっ」
「こら、ジョニー!」
突然抱き寄せられてディズィーが小さく声を上げ、メイがジョニーの胸板を叩く。
「……」
その様子にカイとポチョムキンの顔がわずかに曇ったが、
アクセルは見ないフリをすることにした。
「私……メイシップに乗れて良かった。みんなすごく優しくしてくれるし、
私の本当の姿を見ても全然恐がったりしないんです」
穏やかな口調に、ディズィーの幸せがにじみ出ている。
「あったりまえだよ!だって、ディズィーはボク達の仲間なんだから」
メイが拳を握り締めて力説する。
そんな年若い彼女たちが微笑ましくもあり、そんな自分を
(……俺様もトシなのかなぁ……)
ちょっぴり切なく思ったり。
「勿論、カイさんやポチョムキンさんにも感謝しています。
私のことを心配してこうして会いに来て下さって……」
「いえ、あなたが幸せならそれでいいんです」
「そうだ。我々も仕事なのだから気にしなくていい」
ディズィーの言葉に、二人は口々に答える。
彼女は人間とギアのハーフで、独立型のギアである。
警察機構やツェップはその存在から決して目を離すことはないだろう。
カイにしてもポチョムキンにしても、
それぞれの組織の思惑があって派遣されているはずだ。
しかし、ディズィーを心配する気持ちも本物だから、どことなくバツが悪いのだろう。
(あ~あ。大変だなあ)
アクセルはそんなことを思う。
「あと……もし会うことが出来たら、ソルさんにもお礼を言いたいです」
少し遠い目をしてディズィーが言った。
「私を止めてくれたのはあの人でした。あの人が止めてくれなかったら私……
もっとたくさんの人を傷つけていたかもしれない。だから……とても感謝しているんです」
「ソル……<背徳の炎>か。あれから連絡はないのか?」
ポチョムキンの問いに、ディズィーは黙って首を振る。
その横顔は、少し淋しそうであった。
「ま、あの男の事だ。わざわざディズィーに連絡なんかしてこないだろう」
軽口をたたくようなジョニーの言葉も、ディズィーの心を慰める事はできず、
彼女はますます顔をうつむかせてしまう。
そんなディズィーを見て、アクセルは思わずこう口走っていた。
「ねえカイちゃん。ディズィーちゃんのその言葉、旦那に伝えてあげなよ」
「はい!?」
突然の爆弾発言に、カイの声が裏返る。