忍者ブログ
Admin*Write*Comment
うろほろぞ
[8]  [9]  [10]  [11]  [12]  [13]  [14]  [15]  [16]  [17]  [18
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「アルベルト!!セルバンテス!!!」

「うっひゃわ、な!?ああああー!!!」



突如現れた我らがリーダーによってひっくり返された白と黒の駒に、素っ頓狂な声を上げたのはセルバンテスだった。

「お主らはなんとも思わぬのか!!」

「ちょ・・・・何をするのかね!!せっかく一発逆転の一手を打とうと言う時に・・・ああ・・・オセロでアルベルトに勝てると思ったのに・・・」

ナマズ髭をさらに下げてセルバンテスは肩を落とすが、テーブルを挟んだ向かい側のアルベルトはというと「ざまぁみろ」と言わんばかりの態度で葉巻を盛大に吹かしていた。

「私はね、自慢じゃないがオセロでアルベルトに勝ったためしが無いのだよ?チェスやポーカーでは勝率は上だというのに・・・何故かオセロだけはどーしても勝てないのだよ。そんな私があと一歩で初勝利だというところへ・・・樊瑞!どうしてく」

「そんな場合ではない!!!!!」

本当に自慢にならないことを言うセルバンテスの剣幕を、さらに上回る剣幕で樊瑞はさらに詰め寄った。

「サニーが、私の全てである可愛いサニーがあの覆面男の餌食にぃ!」

「は?」




少々混乱している樊瑞を正気づかせるために、アルベルトは軽く(アルベルト的に)彼のみぞおちに衝撃波付きの一撃を見舞った。




「もう少し落ち着いて説明しろ、うるさくて敵わん」

「いや随分と静かになったが、大丈夫かねぇ」

セルバンテスに鼻を摘み上げられる樊瑞に反応は無かった。





息を吹き返すのに20分を要した樊瑞が涙ながらに語るにはこうだった。

サニーは最近は時間があればほとんど残月の元、つまり彼の執務室へ足を運ぶようになったらしい。残月とて多忙を常とする十傑集であるため、いつもそこにいるわけではないがサニーの方が残月がいる時は必ず訪れるようになったのだ。そしてそれがかれこれ二ヶ月もずっと続いているという。

「それで、どうしてサニーちゃんが残月の餌食になるのかよくわからないのだが」

「何を言うか、今までは時間があればこの私とのんびりとお茶を楽しんだり散歩をしたり・・・とにかく私と過ごしていたというのに・・・それがどうしたことだ!『明日は残月様は本部勤務でいらっしゃるのでしょうかおじ様』『残月様は今度いつお戻りになられるのですか?』『残月様のところへ遊びにいってきます』って・・・・残月残月残月と・・・・奴の元に通うのを楽しみにし、そわそわと待ち焦がれるサニーのあの顔!!うううあああ!!!」

「おいおい、あの残月だよ?あの残月がサニーちゃんをどうこうする男だとは思わないがねぇ、アルベルトもそう思うだろ?」

「少なくとも樊瑞よりかはな」

馬鹿馬鹿しいと言いたげな顔でアルベルトは紫煙をあさっての方向に吐き出した。娘をこの男に預けた責任をちょっとだけ感じたがそれは顔には出さなかった。

「あの男・・・我々の中でもちょーっと一番若いからといって、ちょーっとデキる男だといって、ちょーっとイイ男だからといって・・・きっとサニーは奴に弄ばれておるのだ!!」

「も、弄ばれているっていうのはちょっと考えすぎなんじゃあ・・・っていうか私には想像付かないんだけど」

完全に何かを見失っている樊瑞に2人はため息を漏らすが、私怨(というか嫉妬)を含んだ怒りをあらわに樊瑞はテーブルに拳を叩きつけた。分厚いそれは綺麗に二つに割れてしまったがそれを気にする者は誰もいない。

「イイ男かどうかは・・・覆面被ってるのだからわかんないけどまぁ一番は確実にこの私だとして、若いのは確かだし、彼の仕事の丁寧さは私も認めるところだけど。いいんじゃあないのかねぇ、サニーちゃん本人が楽しければ私は別に問題だとは思わないけどなぁ」

「私にとっては大問題だ!!!今日も残月の元へ行くなどと・・・うううサニー~」

「やれやれ付き合いきれん」

アルベルトは再び溜め息混じりの紫煙を吐いてから立ち去っていった。

「あ、おいアルベルト、もう一回オセロやろう!君が勝ったらモルジブの別荘あげるからさぁもちろんあの島丸ごとだよ!」

一人残ったのは勝手に盛り上がり頭を抱える樊瑞だけだった。













「十常寺から取って置きの茶葉をもらってな、今日は私とお茶を・・・」

「残月様のところへ行く約束をしているの、ごめんなさいおじ様。あ、今日は帰りが夕方になりますね、ちゃんと門限の5時までには戻りますので」

「・・・・・・・・・・・・・」





「サニー、今日もまた残月の元へ・・・」

「残月様今日は一時間しかいらっしゃらないそうなので・・・いけない急がなきゃ。それでは行ってきます」

「あ、ちょっと待ちなさい、サニー!」






あの・・・あの覆面男め・・・・・

渦巻く怨念(というか嫉妬)を背に乗せて樊瑞はその二つ名のとおりの形相を見せる。混世魔王ここに降臨!といった様相。彼の脳内劇場ではサニーの肩を引き寄せ下品な笑みを浮かべる残月の姿。アテレコはきっちり樊瑞によって行われ何も知らない純真無垢なサニーが残月の口車に乗せられてしまって騙されようとしている。子うさぎに牙を剥こうとする狼が忍び寄る!危うし!サニー!・・・・とまぁとにかく盛り上がって(勝手に)いた。

盛り上がりすぎて花嫁姿のサニーの隣に残月が立ったものだからさぁ大変。

全米ではなく樊瑞が泣いたその脳内劇場、ついにいても立ってもいられず気づけば残月の執務室のドアの前で仁王立ちとなっていた。


「残月ー!!私は許さんぞぉーーー!!」

ノックも無しに蹴破るや否や、マントより生み出された無数の古銭の弾丸が執務室のデスクに座っている残月に向かって高速飛来。

「な!!!!?」

「おじ様!?」

残月はさすが十傑集という動きで突如の攻撃にも関わらず全てをかわしたが・・・デスクの上に山高く積まれていた十傑集の決済を必要とする書類全てが古銭攻撃を受け、彼の目の前でまるで粉雪のように細かく飛び散っていった。

「なんてことをしてくれたのだ・・・今日中に各支部に送らねばならぬのに・・・」

「サニー!退いていなさい!!。残月貴様、何も知らぬのをいいことに私のサニーに無理やりチューを迫るとは・・・許さん!!この品性下劣な変態エロ覆面め!!!」

「きゃあ残月様あぶない!おじ様おやめください!!」

再び古銭の攻撃を放ったが・・・無数の古銭は全て同じ数の無数の鋼の針によって一瞬にして壁や書棚に縫い付けられてしまった。

「何をする樊瑞!!」

「おじ様!残月様はそんなことはなさりません!!私はただご本をこちらで読まさせて頂いていただけです!」

前に立ちはだかったサニーにやっと我に返った樊瑞。
彼がが目にしたのは・・・

来客用のテーブルに積まれている全18巻の大長編の恋愛小説。

泣きそうなサニーの手にあるのはその11巻目。
夢中になり先が楽しみで仕方が無い本を・・・しっかり握っていた。

「私がこの本を読むために残月様にお願いしてこちらへ通わせて頂いていたのです」

「え?は?・・・・いやそれなら何故借りるなどしない、今までそうしていたであろう」

「ですが・・・・おじ様は・・・こういう本を私が読むのを・・・」

「樊瑞、お主がうるさいからサニーも借りて帰ることができんのだ。だから彼女から頼まれて私がいる間はここで読まさせていた」

静かにおとなしく読書をしているだけなので自分も仕事に専念できる、たまにお茶を入れてもらったり気分転換にちょっとした話し相手になるので悪くは無い。サニーもまた読む時間は限られるが小うるさい後見人に気兼ねすることなく本を楽しめるし、残月はこころよく話し相手になってくれるので居心地がいい。

「そ・・・・そうだったのか・・・・そうか・・・はは・・・良かった・・・」

「私は良くは無い」

やはり勝手に安堵している樊瑞だったが、覆面越しにでもわかる大きな青筋を額に浮かべて残月は勤めて冷静に愛用する煙管に火を点けた。

「それで?山のような書類を片付けるのに汗を流す私が何をしていたと?」

「いや、あの・・・ゲホゲホ」

まるで樊瑞の顔にあてつけるかのように紫煙が細く吐き出される。

「誰が・・・品性下劣で・・・変態エロ覆面・・・だと?」

「その・・・」

残月はこの状況にどうしていいかわからないサニーに穏やかに言う。

「サニー、済まないが席を外してもらってもよいだろうか?」




一転、樊瑞に向き直れば嵐の前の静けさを含んだ声のトーンで




「『樊瑞のおじ様』と少々込み入った・・・話があるのでな」










END





-----------------
合掌。



PR
ユウジ君を忘れて
セルバンテスのおじさんと仲良くなって
お父さんが三つ目のロボを作り始めて

・・・そしてボクはここに来たときよりも大きくなった。




相変わらずボクの生活は『ふくめんの人』がお世話してくれてて食事もふくめんの担当の人が作ってくれて、服も用意してくれるんだ。あ、でも最近ボクは洗濯機の使い方おぼえたから自分で洗えるよ。干すのは・・・背がとどかないからやっぱりふくめんの人がやってくれてるけど。

それにいつもはふくめんの人だけどセルバンテスのおじさんもたまにボクに勉強を教えてくれるんだ。おじさんは学校の先生よりもずっとていねいに教えてくれるからボクは苦手だった算数が得意になった。だってロボットつくる人になるためには算数もできないといけないもんね。九九だって何も見ずにちゃんと言えるようになったもん。

ボクはこの生活は嫌いじゃないけど・・・うん、嫌いじゃないんだ、でもおじさんがいない間はずっとボクひとりだ。お世話してくれるふくめんの人はなんだか必要なことだけしかしゃべってくれないし遊んでくれないんだ。ゲームはあるけど毎日じゃあきちゃうしさ。おじさんがいるとすっごく楽しいのに、ボクひとりでいるのがなんだかとっても・・・さびしく感じるようになった。

「おじさん・・・ボク・・・ともだちが・・・」

ほしいって・・・言ってみようかな・・・。どうしようおじさん困らないかな。でもおじさん『大丈夫じゃないときはおじさんに言ってくれたまえ』って笑ってたから・・・言ってもいいんだよね?


「お友達が欲しいのかい?」

「・・・うん・・・・」

「おじさんだけじゃあダメかなぁ」

「え?・・・おじさんもボクのともだちだけど・・・」

「いやいや、ははは!冗談だよ大作君。近い年の子じゃないとね。うん、そうだねぇよし、毎日遊ぶことはできなくってもたまにで良ければ・・・なんとかしてあげよう」

「本当!?やったあ!」

「やっぱり独りじゃあ寂しいものね、おじさんもわかるよ」

ボクはうれしくって飛びはねちゃったよ。だってダメだと思ってたから。おじさんに言ってみてよかった・・・。





それから一週間してまたセルバンテスのおじさんがひょっこりボクに会いに来てくれた。
おじさんはいつもよりニコニコ笑っててうれしそうにしてるんだ。

「大作君、君とお友達になりたいって子を連れてきたよ・・・ふふふ、女の子なんだけど会ってくれるかい?」

え・・・えええ!えー!女の子ぉ・・・ボク、男の子だと思ってたのに・・・。べ、べつに嫌じゃないけどさ、ボクがまだ学校に行ってた時は女の子と遊んだことなんか無いんだもん。だって女の子とどうやって遊んでいいのかわかんないし・・・・。

「とっても可愛いんだよ?大作君に会えるのを楽しみにしてくれてたんだよ?」

・・・どうしようなんだかとってもきんちょうしてきた・・・。

「うん・・・・いいよ・・・」

そう言ったらおじさんがニッコリ笑って頭からかぶってるクフィーヤってやつを広げたら中から・・・女の子が出てきた。

「・・・こん・・・にちは・・・・サニー・・・です」

うっわー・・・・すっごく・・・その・・・かわいい・・・。お人形さんみたいな女の子だぁ・・・学校でもこんなにかわいい子いなかったよ?外国の人みたいに髪がふわっふわで色がキラキラしてて、目が大きくって・・・ボク初めて見たけど赤い色してる、ふしぎだなぁ。

「ようし、じゃああっちで遊んでおいで、もちろん仲良くだ」









「ボク・・・大作って言うんだ」

「・・・・・」

サニー・・・ちゃん、さっきからとってもはずかしそうにモジモジしてる。ボクもとってもはずかしいんだけど・・・どうしよう何しゃべっていいのかわかんないや。女の子だからゲームとかやんないだろうし、どうやって遊べばいいんだろ・・・。

「あ・・・あれさ・・・ボクが描いた絵なんだ」

たまたま目に付いた去年描いたボクの「かぞくの絵」を見せてあげたんだ。

「このすみっこの・・・セルバンテスのおじさまね?」

「うん!」

ゴーグルかけて真っ白い布かぶってて、長くてへんなヒゲだからすぐにわかるよね。サニーちゃんも知ってる人だからうれしそうに笑ってる。サニーちゃんフツーにしてるときもかわいいけど・・・笑ってるともっとかわいいなぁ。

「これなぁに?」

これ?ロボだよ、ボクお父さんが作ってるとってもとっても大きなロボットなんだ。

「ロボットが家族なの?」

そうだよ、おかしい?って聞いたらサニーちゃんは「ううん」って言ってくれた。


それをきっかけにボクはサニーちゃんといろいろお話したんだ、サニーちゃんもボクとおんなじでお母さん小さい頃に死んじゃっていないんだって。そしてお父さんとはなれて暮らしててやっぱりふくめんの人に囲まれてお世話してもらってるんだって。

ボクはなんだかうれしくなった。だってお母さんがいなくって仕事がいそがしいお父さんとあんまし一緒にいられないなんて・・・ボクと・・・似てるよね?

「サニーちゃんも何か描く?」

ボクはサニーちゃんとお絵かきして遊ぶことにした。この前セルバンテスのおじさんに買ってもらった36色もあるとっておきの色鉛筆をはじめて使ったんだよ。ボクは画用紙いっぱいにロボを描いてたんだけどサニーちゃんはたくさん人を描いてた、これだれ?ってきいたら「サニーのおじ様たちよ」って言うんだ。

セルバンテスのおじさんはすぐにわかったけど・・・他はわかんない、だれなんだろう。

「これはカワラザキのおじい様に幽鬼様、そしてこっちが怒鬼様に十常寺様に・・・」

すごい・・・サニーちゃんてこんなにおじさんがいるんだ・・・。ねぇこのピンク色の人はだれ?かみがすっごく長いの。

「樊瑞のおじ様よ、とってもおやさしくってサニーは大好きなの」

へぇ・・・いいなぁサニーちゃんこんなにたくさんおじさんがいて。ボクのおじさんはセルバンテスのおじさんしかいないもん。うらやましいなぁ・・・

「でも・・・サニーは大作君がいいなぁって思うの。だってパパといっしょに暮らしてるんでしょ?サニーは樊瑞のおじ様と一緒に暮らしてるけど・・・パパとは一緒に暮らしてないの」

なんで?やっぱりお仕事がとってもいそがしいから?

「たぶんそうだと思うんだけど・・・・サニーよく・・・わかんない・・・『おやこのえん』を切ってるからだろってレッド様が言ってたけど・・・ねぇ大作君、おやこのえんってなぁに?」

わかんない、なんだろう・・・。それ切ってるからサニーちゃんと暮らせないんだったら切ったのひっつければいいんじゃないかなぁ。ボクが持ってる工作用の接着剤でひっつくんだったら貸してあげてもいいよ?

ボクは机の引き出しから黄色いチューブに入った接着剤を取り出してサニーちゃんに貸してあげた。すぐにひっつかないんだったらセロテープで止めておけばいいんだ、しばらくすればたぶんしっかりひっつくよ。

「そうなんだ・・・サニーパパにお願いしてみるわ、ありがとう大作君」

「ひっつくといいね」

「うん」

ボクたちは絵を描きながらもっとお話をした。サニーちゃんはたくさんいるおじさんたちのことやちょっとこわいけど大好きなお父さんのこと。ボクは去年やった家出のこと話したらサニーちゃんすっごくおどろいてた、えへへ、家出やったからねサニーちゃんよりちょっと大人だよボクは。そうだ、サニーちゃんも家出やってみるといいよ?だってお父さんがきっと心配してサニーちゃんを探してくれるよきっと。

サニーちゃんまたわらった。

ボクはサニーちゃんはわらってるのがぜったいにいいと思う。


それから天気がいいから外に出て遊ぶことになってボクはサニーちゃんとふたりで原っぱへ行ったんだ。原っぱって言ってもボクの家、おじさんが「基地」って呼ぶ建物のすぐそばにあるんだ。でもそこで遊ぶときはいっつもふくめんの人が2、3人付いてきちゃうんだよ、なんでだろ。

真ん中におおきな木があってボクはそれにのぼれるんだよ?すごいでしょ・・・って・・・ええ!サニーちゃんすごい・・・のぼっちゃった・・・。

ボクはびっくりした、だって女の子って木登りしないって思ってたから。

「大作君もはやく!」

「うん、ちょっとまってて!」

いつものようにボクは木に足をかけてしがみつくように登っていったんだ

サニーちゃんが手を伸ばしてくれて、ボクはその手をにぎろうとした

その時、ボクは足をすべらせちゃって・・・

空にあるおおきな太陽が・・・・見えた



「きゃあー!!大作君!!!!」



サニーちゃんがボクの名前をよんでさけんでるのが聞こえて

その時目の前が・・・ピカーってまっかっかになったんだ・・・



いたい・・・・・・・

足が・・・いたい・・・・いたいよぉ・・・お父さぁん・・・・

「貴様ぁ!サニー様に何をした!!!サニー様!おい救護班を呼べ!」

頭もいたい・・・・おじさぁん・・・・いたいよぉ・・・

「大・・・君・・・」

「サニー様!おい早くしろっそんな小僧はどうでもいい!!」

「だいさく・・・くん・・・ごめんなさい・・・」



サニーちゃん・・・・・・・・・












ボクが気づいたとき空に太陽は無くって・・・上は真っ白いてんじょうだった。

「大丈夫かい?大作君・・・」

おじさんだ、セルバンテスのおじさんだ。
おじさん、ボクどうしたの?サニーちゃんは?

「木から落ちちゃって足の骨を折っちゃったんだよ、まだ痛むかい?」

ほんとだ、ボクの左足がほうたいでグルグル巻きになってる。ううん、もう痛くないよ。それよりオデコがなんだかヒリヒリするんだ・・・ぶつけちゃったのかなぁ。でもおじさん、サニーちゃんは大丈夫?だって・・・ふくめんの人がすっごく・・・さけんでて・・・ボク・・・。

怖かった・・・

赤い光がピカーって光って・・・それになにかとんでも無い事をしちゃったのかなって、ふくめんの人がボクのことどうでもいい!ってさけんでる声聞いててすごく怖かったんだ。怖かったんだおじさん・・・。

「どうでもよくないから、大作君が謝ることはないんだよ、おじさんが・・・一番悪かったんだ・・・済まなかったね」

ボクは初めておじさんがためいきするの見た・・・どうしておじさんが悪いんだろう、悪いのボクなのに、足をすべらせて・・・きっとサニーちゃんも落ちちゃったんだ・・・そうだ、サニーちゃんは?ケガしてない?

「・・・・・大丈夫だよ、ちょっとお熱が・・・出てね、先にお家に帰ったんだよ。大作君のことをとても心配してて『ごめんね』って言ってたよ・・・・」

どうして・・・・どうしてサニーちゃんがあやまるの?おじさんがあやまるの?ボクもあやまって・・・なんだか変だよ。みんながあやまって変だよ。

「そうだね、変だね・・・」

絶対に・・・変だよ・・・・。





それから・・・二日たってセルバンテスのおじさんがボクがいる病室にやってきた。

「大作君、実はサニーちゃん、お父さんの仕事の都合で遠くへお引越しすることになったんだよ」

「・・・・そっか・・・・サニーちゃん・・・おともだちになれるって思ってたのに」

「・・・・・・・・・・・・・」

そうだ、ねぇおじさんこの前サニーちゃんに貸した接着剤、あげるよって言っといて欲しいんだけど。ボクはもう一個持ってるし。

「接着剤??」

うん、サニーちゃんがさ、切った『おやこのえん』っていうのをくっつけるのに使うから貸してあげたんだ。うまくひっつくといいんだけど・・・あれ紙と木の接着剤だから、プラモデル用のやつにすれば良かったかなぁ。ねぇおじさんはどう思う?

「いや、それでひっつくと思うよ・・・・」

おじさん、ボクを抱きよせてくれた。

そうだよ、ひっついてサニーちゃんはお父さんと一緒に暮らせるようになるといいんだ。

だよね、サニーちゃん。


バイバイ・・・サニーちゃん・・・。


バイバイ・・・・・・・・・・・。









ボクの左足についてた白いかたまりがとれて・・・

ボクは歩けるようになってからあの原っぱに行ってみた。



原っぱにあったはずの大きな木が無くなってた。

ううん、無くなってはなかったんだ。

上半分が無くなって根元がボロボロになって

雷が・・・落ちたいみたいに・・・なってた・・・。

オデコのヒリヒリはもう無くなったのに、またヒリヒリしだして・・・

あの赤い光を思い出した。

怖い、って思ってボクはもうその原っぱに行かなくなったんだ。










END


「きゃあー!!!大作君!!!!」

そのとき自分でもなにがどうなったのかってわからなかったの。
すっごく頭が熱くなって目の前が赤くなって・・・・

ドーンって大きな音がして・・・登ってた木が・・・

私が・・・サニーがしたの・・・・


ただ落ちそうになった大作君の手をつかんであげようって思ったのに
助けてあげようって思っただけなのに・・・・・・・・


「おい!救護班こっちだ!!サニー様を!小僧などどうでもいいっ」

「うわっだめだ、まだトランス状態で近寄れない!!」

「仕方ないっセルバンテス様をお呼びしろ早く!」

どうしたの?・・・どうしてみんな・・・・頭がいたい・・・いたい・・・パパぁ・・・

大作君・・・頭から血が・・・サニーが・・・サニーがしたの・・・・

「申し訳ございませんセルバンテス様!!少し目を離した隙にっ」

「こ、これはいかん!!サニー!!」

「セルバンテス様近づくと危険です!!」

「どけ!お前たちは下がっていろ!!」

おじ様・・・サニーどうしたの?

「こんなことになるとは・・・サニー!私の目を見なさいっ」

目・・・?おじ様・・・の?
おじ様の目・・・色が・・・・・・・・・・・・・

「そうだ私の目だけ見ていなさい、さあ大丈夫だから目だけを・・・」

なんだか身体が・・・
頭が・・・・軽く・・・・

「さあ早く運べっ、いいかレベル5の遮蔽治療室を使いVS03=Y型を5ml血液注射しろ。後で私もすぐに行く!・・・おい!何をやっている大作君も怪我をしているじゃないか!早く運ぶんだっ!!!」


だいさくくん・・・ごめんね・・・・・・・・・









サニー、夢をみたの



パパ・・・赤ちゃん抱きかかえて走ってる・・・・

まわりはこわれたたてものばっかりで

明かりがなくってまっくらで、火事なのかな、燃えてる火だけが明るいの

車も、電車もこわれてうごいてないの

人も・・・うごいてない人が多くって・・・・

たくさんたくさんうごいてない人がいて・・・

パパはその中を・・・サニーを抱きかかえて走ってるの・・・・










「サニーちゃん、気がついたかい?」

パ・・・・おじ様・・・うん・・・ここはどこ?病院?

「そうだよ、サニーちゃんちょっと熱がでただけなんだ。寝ていれば治るから」

・・・・・・そう・・・なの・・・うん、頭がとってもいたかったのにもうなんともなくなってる・・・・あ、おじ様大作君は?大作君ケガしたの、サニーの、サニーのせいでケガしたの!どうしよう!どうしようおじ様!

「違うよ、サニーちゃんのせいじゃあないから安心したまえ」

ううん、サニーがやったの。サニーが大作君にケガさせちゃったの。ほんとうにごめんなさい・・・・ごめんな・・・・さい。

「サニーちゃん・・・・」

おじ様、どうしてうつむくの?




それからサニーは大作君がいる「基地」の病院からいつもくらしている「本部」の「メディカルセンター」っていうところに運ばれたの。


樊瑞のおじ様が泣きそうな顔しておみまいにきてくれた・・・しんぱいかけてごめんなさいおじ様。ううん、もう頭はいたくないの。サニーもう大丈夫お熱下がったみたい。でももう少し寝てなさいってセルバンテスのおじ様が言ったから・・・はい。ありがとうございます樊瑞のおじ様。


それからサニーはひとりでいっぱい考えたの、大作君にあやまらなくっちゃ、血が・・・出てたもん・・・いたいよね・・・サニーをゆるしてくれるかな・・・。またいっしょに遊んでくれるかな・・・。こんど会ったとき大作君に「ごめんね」ってあやまって・・・そうだ、クッキーを持っていこう。チョコがついたクッキーなら大作君も大好きだよね?2人で食べてまたお絵かきしたいな。


「寝ていないのか」

「パパ!」

パパ来てくれたんだ、しんぱいかけてごめんなさい・・・。

「まったく・・・セルバンテスがなにやらコソコソしているかと思ったら・・・お前と、どこぞの子どもとを・・・こうなる可能性もあるのをわかっていながら何を考えているのだあの男はっ!」

パパ、セルバンテスのおじ様を怒らないで。サニーがわがまま言ってお願いしたの、おともだちが欲しいって。それで・・・それでセルバンテスのおじ様が・・・・。サニーが悪いの、ごめんなさい・・・。

「その子どもとどうなったのかは頭に直接見えたからな・・・わかった・・・・わかっている・・・セルバンテスは悪くない、ましてやサニーお前も何も悪くは・・・ない。謝る必要などどこにもない、謝らなくて・・・いい・・・」

パパ?どうしたの?

「本当に悪いのは・・・私だ」

どうして?

「私の子であり血を受け継ぐばかりに・・・」

???
どうして?パパが悪くってあやまるの??

「こんなことになるのなら・・・・・ずっと独りでいればよかったのだ・・・・・」

パパはサニーの横に座ってセルバンテスのおじ様みたいにうつむいたの。
サニーはパパの言葉がわからなかったけどとっても悲しくっなって

悲しくなって・・・


「あのねサニーパパの夢を見たの、パパが赤ちゃんのサニーを抱いて走ってたのよ?」

「夢・・・?・・・私が?」

「パパ、サニーを落とさないようにしっかり抱いてくれてたの、わかったの」

「そ、それは・・・まさか・・・」

「だからサニーは・・・・パパの子で良かったって、思ったの・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

パパ変な顔になっちゃった。でも本当にそう思ったんだもん。
ね、パパ、パパ?・・・まだ変な顔になってる、うふふおかしいの。

あ、そうだあれをパパにわたさなきゃ・・・どこへ・・・あ、机の上にあった。
ねぇパパあれ使ってみて?


「なんだこれは」

「おともだちの子から貸してもらった接着剤、切っちゃった『おやこのえん』をこれでひっつければいいんだって。すぐつかなくってもセロテープで貼り付けておけばしっかりつくかもって、言ってたの」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「パパ、これ使ってみてサニー『おやこのえん』ってわかんないから・・・

「・・・・・・・・・・・・そうか」

「ひっつくといいな・・・だってそれが切れてるからサニーはパパといっしょに暮らせないんでしょ?ひっつくとサニーはパパといっしょにいられるもの」

「・・・・・・・・・そう・・・・・・か・・」

パパ?

パパどうしたの?

大作君から借りた接着剤をパパはスーツのポケットにいれて「もう寝ていろ」ってサニーに言って出ていっちゃった。






それから三日たってセルバンテスのおじ様がサニーのおみまいにきてくれたの。もうサニー大丈夫なのに樊瑞のおじ様が「まだ休んでいなさい」って・・・おじ様って心配しすぎなの。

「ふふふ、いいじゃあないかサニーちゃん。でも本当に大丈夫かい?」

はい、セルバンテスのおじ様にも心配かけちゃって・・・

「いやいや、謝らないでくれたまえ。悪かったのはおじ様の方なのだから・・・」

ううん、違うの。パパはおじ様は悪くないって言ってたの。パパがねパパが悪いんだって・・・言ってたの・・・どうして悪いのかな・・・おじ様どうして?

「・・・・・・・・どうして・・・かな、おじ様にもわからない・・・・な・・・」

またおじ様うつむいちゃった・・・。ねぇおじ様大作君は大丈夫?

「ん?あ、ああ大作君は元気にしているよ、ところでね・・・・大作君なんだけど近いうちにお父さんのお仕事の都合で遠くへ引っ越すことになったんだよ・・・・」

「え、大作君が?・・・・そうなの・・・おともだちになれると思ったのに・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

あ、そうだ大作君から借りた接着剤返さなきゃ・・・

「ああ、それならね大作君が『あげるよ』って言ってたからサニーちゃん使いたまえ」

「本当?おじ様大作君に『ありがとう』って言ってくれる?」

「もちろんだよ」

「それと・・・『ごめんね』って・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」













あれから・・・・・



あれからだいぶたつけどサニーはまだパパといっしょに暮らせないでいて

でも

すぐにひっつかなくってもセロテープで止めておけばそのうちひっつくんだって大作君が言ってたからもう少し時間がかかるんだと思うの。




きっとサニーのパパがセロテープで止めてくれてるから、大丈夫よね?大作君。






END







 ヨーロッパ方面のとある支部での研修を終え、戴宗は今更のように息を吐いた。
 北京支部からの迎えは明日の昼頃になるという。すでにレポートの提出も済んでいる。そんなワケで街に出かける事にした。

 異国の街は、夕暮れ前だというのに化物や魔物で溢れていた。
「なんだい?こりゃあ…」
 楊志が驚いたように声をあげた。彼女とは今回の研修で行動を共にしていた。
 女とはいえ背が高く、長い六角棒を手に辺りを見回す姿には迫力がある。一方、戴宗は見た目はひょろりとした痩せ型で、ちょいと猫背。常に酒を入れた瓢箪を手離さない。そんな二人の風体は、こちらの支部では必要以上に目立っていた。
 しかし、今日のこの街ではそんな事はなさそうだ。
「あぁあ…今夜はあれだ。ほれ、ハロウィンとか言うヤツだ」
 顎を指で掻きながら戴宗が呟く。
「ハロウィン?」
「まぁ祭だな。この辺りの国の。何でも遠い昔にゃ今日が一年の終わりでよ。その夜には死人が生き返って家に帰ってきたり、魔物が出たりするんだとさ」
「死人が生き返るだって?」
 表情が厳しくなる楊志に、戴宗は笑みを向ける。
「だから昔話よぅ。で、そん時に悪さされねぇように、こっちも化けモンの形ィして、逆に威かしてやったてぇ事らしい」
「ふうん」
 なんだいそりゃあ…と言わんばかりに鼻を鳴らす楊志に、戴宗は片頬を上げて苦笑する。
 あの重い六角棒を軽々と片手で振り回す彼女なら、蘇った死人だろうが魔物だろうが平気だろう。
 さすがは国際警察機構のエキスパートと言う所か。
「まぁいいじゃねぇか。元はともかく、今は祭になってんだからよ。楽しもうぜ」
「何さ。そりゃあ呉先生の受け売りかい?」
「ばれたか」
 戴宗は大袈裟に顔をしかめると、肩を竦めた。
 こちらの支部に研修で赴く事が決まった時、日程を見ていた呉学人が『ああ…ハロウィンですね』と呟いた。
 その懐かしそうな声音に惹かれて、何か?と訊ねたのだ。
『お祭ですよ』
 蘇る死人だの魔物だのという話に、胡乱気な顔をした戴宗に呉は微笑みながらそう言った。
『子供たちが、とても楽しみにしている祭です』と。

 魔物たちが闊歩する街を染めていた昼間の残照が消え、夜の帳が下りる。あちこちにオレンジ色のカボチャを刳り貫いて細工したランタンが置いてあり、ロウソクの灯が揺れていた。
 薄く明るさが残る空には、まだ星の姿は無い。逢魔が時。
「ん?」
 不意に楊志が怪訝そうに首を傾げ、足早に歩き出す。
「どしたい?」
 後に続きながら問い掛ける戴宗に、楊志は振り向きもせず答えた。
「ありゃあ、迷子じゃないかい?」
「迷子ォ?」
 楊志の目指す方を見る。雑踏の中、次から次へと流れてくる人に巻き込まれながら、魔女の格好をした幼い少女が不安そうに周りを見回していた。
 その目は泣き腫らしたのか真っ赤だ。
「だな。おお?」
 こりゃヤベぇと呟いて、戴宗は走り出す。酔っているのか、変に浮かれた数人が少女を取り囲むのが見えたのだ。
 神行太保の二つ名は伊達では無い。人ごみを縫い、あっと言う間に酔払いとその少女の間に割って入った。
「何だぁ?お前は~」
 妙に間延びした声で骸骨が怒鳴りつけた。その横では白いゴムマスクをつけた奴が、チェンソーを振り回して威嚇している。他の奴も似たり寄ったりの仮装で、皆、顔が見えなかった。
「まぁまぁ。顔が見えねぇからって、おイタはいけねーよなぁ」
「何だとぉ!」
 ひょろりとした風貌の戴宗に、数でも勝ると驕っているのが見え見えの態度で怒鳴りつけ掴みかかって来た。
「おおっと。喧嘩はよそうや。今日は祭だ。楽しむのが本分だろォ?」
「うるせぇ!」
 骸骨が拳を振り上げたその鼻先に、風を切る音と共に太い六角棒が突き立った。
「この子に何か用かい?」
 頭ひとつ高い所から降る、怒りを含んだ低い声。恐る恐る見上げる酔払いたちを、楊志が睨み付けていた。
 後も見ずに逃げてゆく酔払いたちを見送りながら、戴宗は苦笑した。
「助かったぜ。ありがとよ」
「どうって事無いさ」
 軽く鼻で笑った楊志は、戴宗の後ろで震えている幼い少女の前に片膝をつく。
「怪我ァ無いかい?もう大丈夫だからね」
 顔を覗きこむようにして優しく声をかけると、少女の目にみるみる涙が溢れだす。
「ああヨシヨシ。怖かったねぇ」
 抱き寄せて背中をあやすように叩いてやると、少女は楊志の豊かな胸に顔を埋めて泣き出した。落ちた魔女のトンガリ帽子を手に、戴宗はその様子を呆けたような顔で見ていた。
 少女を胸に抱き寄せた楊志の顔は優しくて、なんだかひどく懐かしい。ああそういえば、以前どこかで見た救世主とやらのおっ母さんの像に似ているのだと気付いた。
「何見てンのさ?」
「ん~?ああ・・・」
 まさか見惚れていたとは当の本人に言えず、戴宗はごにょごにょと言葉を濁す。
「いや・・・この子の連れはどこ行ったのかな~・・・と思ってよ」
「そうだねぇ・・・」
 まだ小さくしゃくり上げている少女を身体をそっと引き離して、涙を拭いてやる。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「・・・サニー」
 鈴を転がすような可愛い声が、少し舌足らずの発音で答える。
「サニーちゃんは、一人で来たのかい?」
「ううん。おじさまと来たの」
 おじさまねぇ・・・と戴宗が溜息交じりに呟くのが聞こえた。
 どうやら良いとこの世間知らずのお嬢様らしいと、楊志も小さく溜息を吐く。たくさんのモンスター達や色とりどりのお菓子に目を奪われて、気が付いたら繋いでいた手を離していたという所だろう。
「いっしょに来たおじさまは、どんな格好してたんだい?」
「カボチャ大王!」
 カボチャ大王ねぇ・・・と呆れたように呟きながら、戴宗は辺りを見回す。カボチャなら辺り一帯数限りなくランタンが置いてある。
「しょうがないねぇ」
 おじさまの顔を知ってるのはお嬢ちゃんだけだからと、楊志は少女を抱き上げると肩車をした。
「きゃあv」
「遠くまで見えるかい?」
「はい!」
 とても良いお返事をして、少女は嬉しそうに目を輝かせた。
「それじゃあ、カボチャ大王のおじさまを探すかねぇ」
 小さな魔女を肩車して、楊志と戴宗はモンスター達が闊歩する街を、再び歩き始めた。

 いつの間にか昇った月が、辺りを明るく照らす。今夜は満月だった。
 それを見上げ、楊志は小さく舌打ちをする。
「かなり遅くなっちまった。きっとサニーちゃんのママは心配してるよ」
「サニーにママは・・・いないの」
「ええ?」
 肩車した少女を見上げる。
「お空のお星さまになったの・・・」
 ポツンと答えた声は小さく、湿っていた。
「じゃあ・・・パパと二人だけなのかい?」
 ううん・・・と小さな声が返ってくる。
「パパはサニーといっしょにいられないからって・・・」
「それで、おじさまと・・・か」
 戴宗が納得したように呟いた。
「・・・・・・」
 立ち止まった楊志は、意を決したように頷くと、人波から外れた場所に移動して少女を肩から下ろす。
 辺りはかなり広いカボチャ畑。月の光に照らされて、そこかしこに転がったカボチャが光っていた。
「サニーちゃん」
 不思議そうに見上げる少女の前に身を屈めて、懐から取り出した物を差し出す。
「これ、あげるよ。持ってきな」
「なあに?」
 渡された物を掌に乗せて、しげしげと眺める。小さくて平たい、少し歪なまあるい物。
 それは護符だった。
「おい楊志。そりゃあ一清道人が、おめぇに・・・」
「いいんだよ。あたしは自分の身ぐらい、自分で護れる。でもこの子は」
 そうじゃないだろ?と笑ってみせた。
「あのね、それはお守りなんだよ」
「おまもり?」
「そう。サニーちゃんを悪い事から護ってくれるんだ」
「わるいこと?」
「そうさ。悪い事を遠ざけて、良い事を呼ぶんだよ」
「ふうん」
 意味は解らなくても、自分の眼を覗き込むようにして話しかける楊志の真摯さは伝わったのだろう。少女はにっこりと花が咲くように笑った。
「ありがとう。おねえさま」
 小さな手を伸ばして楊志の首に抱きつくと、その頬にキスをした。

 不意に。
 項の毛が逆立つような殺気を感じて、戴宗は身構えた。
「なんだい?」
「敵だ!」
 二人を庇うように前に出る。
 刹那。天に掛かる月を裂く様に大気が音をたて、地面を穿つ。
「ちぃ!」
 土煙の向こう、満月を背に立つ影が在った。
 そのシルエットは見間違えようも無い。
「まさか!衝撃の・・・」
「パパっ!」
 その嬉しそうな声に、金縛りに遭った様に固まってしまった戴宗と楊志の後から、少女が駆け出してその影に飛びついた。
「ぱ、パパだぁ~~!!?」
 素っ頓狂な声を上げる戴宗を、少女を抱き上げた影が睨むのが逆光なのにわかる。
 光る紅い瞳。間違えようも無い。
 BF団の超A級エージェント、衝撃のアルベルトだ。
「まさか貴様らと一緒だったとはな…」
 いつもの地を這うような声が呟く。そんなアルベルトに、少女は嬉しそうに抱きついていた。
「え・・・マジで?マジでおっさんの娘?!何?おっさん、所帯持ちだったのかぁ?」
「五月蝿い!」
 声と共にかざされた右手の掌底には、空気の渦が赤黒く歪む。 
 


「パパ」
 少女が思い出したように、握っていた手を開いて見せる。
「ほらこれ。おねえさまにいただいたの」
「ん?」
 何だ、と言う様にアルベルトの片眉が上がる。小さな掌にあったのは、先刻渡した護符だった。
「おまもりです。サニーをわるいことからまもってくれるの」
 すごいでしょ?パパ、と微笑む娘にアルベルトは応えない。
 ただジロリと紅い瞳が、戴宗たちを睥睨する。
「衝撃の…」
 戴宗は気が気ではなかった。BF団屈指の超A級エージェントが、たとえ子供にでも国際警察機構からの物を受け取るだろうか?・・・と。
 しかし今ここで取り上げたら、この少女が傷つくのは確実だ。この子の泣き顔は見たくない。
 ハラハラしている戴宗たちの事など知らぬ気に、紅い瞳は厳しいままだった。
 が。
「そうか。大切にするがいい」
「はい!パパ」
 嬉しそうに輝いた少女の瞳も同じ紅。
 ああ本当にこの二人は親子なんだな・・・と、唐突に戴宗は納得した。

 緊張感を含んだ、それで居て何か毒気を抜かれたような微妙な空気がお互いの間を流れていたが、少女には関係無い。父親に抱かれたまま、楊志に笑顔を向けた。
「さよなら、おねえさま。」
「良かったねぇ。パパが迎えに来てくれてさぁ」
「うん!」
 このまま和やかに別れるのが得策なのは解っていた。しかし・・・
 どうしても気になる事が。
「あんたがパパだって事はだ。おじさまってなァ・・・」 
「私だよ」
「うわっ!」
 いつの間にか背後に、白いクフィーヤの男が立っていた。頭に大きなカボチャが乗っている。
「まさかっ・・・!眩惑の・・・」
「セルバンテスのおじさま!」
 少女の嬉しそうな声に、クフィーヤを翻して駆け寄って行った。
「サニーちゃ~ん!探したよー。無事で良かった~」
「元はと言えば貴様が・・・!」
「ごめんよ、アルベルト~。でも、どーしてもサニーちゃんにハロウィーンのパーティが見せたくてさぁ。だから君が一緒に来れば良かったんだよ~。狼男の仮装も似合ってたし」
「まだ言うか・・・ッ」
「えー、だって~・・・ん?何、サニーちゃん」
 少女が手にした物を見せる。
「え?何?お守りなんだ~。あのお姉さまに貰ったの。そう。良かったねぇ」
 とても秘密結社の超A級のエージェントが2人も絡んでいるとは思えない状況に、呆けたように見ている戴宗と楊志の前で、嬉しそうに話かける少女にセルバンテスはいちいち頷いていた。
「うん?いいよ。サニーちゃんのお願いなら、何でもきいてあげる」
 ふわりと白いクフィーヤが翻り、戴宗と楊志の前にきれいにラッピングされた包みが差し出された。
「な、何でェ」
「カボチャ大王からのプレゼントだよ。決まってるだろ」
 受け取りたまえ・・・と目が促すのに、戴宗と楊志は顔を見合わせた。
「大丈夫。毒なんか入って無いから」
 にこやかに、しかし声を潜めて先を続ける。
「これで貸し借り無し・・・て事だよ」
「ああ・・・なるほどなァ」
 戴宗もにやりと笑うと包みを受け取った。
「おっと、これも返しとくわ」
 ずっと手にしていた魔女のトンガリ帽子をお返しに渡す。あっさりと受け取ったセルバンテスは、それを少女の頭に恭しく被せた。
「それじゃあ帰ろうか。イワンがパンプキン・プティング作って待ってるからねぇ」
「はい」
 父親に抱かれたまま幸せそうに小さな手を振る少女に、戴宗と楊志も手を振る。
「じゃあな。お嬢ちゃん。もう迷子になるんじゃねぇぜ」
「元気でね。うんとパパに甘えておやり」
「うん!」
 大きく頷いた少女の笑顔を最後に、秘密結社BF団の超A級エージェント2人は姿を消した。

「可愛い子だったねぇ」
 夜空を見上げ、楊志が呟く。
「ああ、まぁなァ」
 あの衝撃のアルベルトが親父とは・・・
 妙な敗北感を感じるのは何故だ?と戴宗は大きな溜息を吐いた。
「やっぱハロウィンの夜にゃァ、魔物がでるんだなぁ」
「そうだね」
 くすりと楊志が笑う。


 空にはハロウィーンの満月が輝いていた。





 - end -






選択



―あの人は誰?
―知らない。私は知らない。



地球に再び動力が戻ってから7日。
アルベルトの忘れ形見の赤い瞳は閉じられたままで、後見人樊瑞はその傍らに佇んでいた。
「サニー」
赤い瞳の主に言葉をかけるも、返事はない。
いつもなら「おじ様」と、はにかんだ笑みを返してくるこの幼子が、今は寝台の上に表情なく横たわっている。

アルベルトが行方不明になった時、父を救うため樊瑞の力になりたいと、
サニーは自ら望み証言に立った。
サニーが十傑集の揃う場に出たのは初めての事で、その手は冷たく足は震えていた。
そこで浴びせられた策士の辛らつな言葉。
「そんな父は―」
思わず口をついて出た言葉は樊瑞によって制された。
戸惑うサニーを包み込む大きな手と優しい表情。
それにサニーは安堵する。
すべてはおじ様に任せておけばいいのだとそう思った。

しかし相手は策士諸葛孔明。
BFの威を借るその者にBFに忠誠を誓う樊瑞が逆らうすべはない。
アキレスによってサニーは捕らえられ、策士の人形としてBFに扮せられた。 
自我の封じられた状態で、それでもサニーは必死に樊瑞に助けを求めた。
サニーにあったのは樊瑞への絶対的な信頼。
"おじ様”なら必ず助けてくれるとそう信じていた。
盲目的に。
だが、樊瑞はそれを知りながら目をつぶった。
それは主に対する盲目であり、すべては十傑集混世魔王としての判断で
そこにサニーの愛する“おじ様”の姿はなかった。

そしてサニーは壮絶な父の死を目の当たりにし、術を解かれた後に意識を失った。
その意識は7日を経た現在も戻っていない。
医者の話によると意識が戻る戻らぬは本人次第との事だった。

―サニーを篤く守り育ててきたつもりがこの結果。
樊瑞は大きく息を吐き、先日のレッドとのやりとりを思い返していた。



「足でまといになった者の口から秘密が漏れぬよう始末するのは忍の鉄則。
それに素晴らしきをあのまま生かしておいて何の利がある?
BF団に。ましてBFにだ。それはいつもお主が言っていることではないか。」

十傑集の一人素晴らしきヒィッツカラルドは、敵の能力者のテレポートに巻き込まれ半身が岩と同化した。
その始末を己がつけたと報告したのは帰還したマスク・ザ・レッドだった。
詳しい経緯を聞くため、十傑集のリーダーである樊瑞はレッドを執務室に呼んだのだ。

「生き残り生き恥を晒すより、十傑集のまま散った方が奴の名誉だろう?そうは思わないか?」
レッドにそう問われた樊瑞は何も言い返すことが出来ず、ただ唸った。
眉間に刻まれる深い皺。
「反応が実にお主らしいな。」
レッドは苦笑しながら、ふと思いついたようにこう切り出した。
「そう言えばお主が育てている衝撃の娘、あれ以来意識が戻らぬと聞いたが。」
眉間の皺を益々深め、樊瑞はただ「ああ」と相槌打った。
レッドは頷き、さらに続けた。
「その幼子にとって衝撃の死はさぞかし辛きことだったのだろう。将来戦いに身をおくとわかっていながらなぜ仮初の幸せなど見せた。幸を知らなければ“不幸”になることもないというのに。」

それは樊瑞も考えるところであった。
サニーは衝撃の娘として強大な力を持っていた。
それゆえ策士からは十傑集候補としての早期育成を要請されていた。
しかし樊瑞は時期尚早だと訴え、この10年自分の下で慈しみながら娘のように育ててきた。
樊瑞はせめて幼い間だけでもサニーに人並みの幸せを味わわせてやりたいと願い、それを実行したのだった。
その結果サニーはBF団に身を置きながら、血や戦、死とは無縁の世界に生きてきた。

だが所詮は仮初の夢の城。
眩惑の死によりすべてのまぼろしは消え去り、
幼いサニーにいきなりつきつけられたのは辛い現実だった。
そしてそれをうまく受け止められずにいるうちに今度はテレパスで繋がった父までも失った。
サニーがすべてを投げ出し己の殻に籠もるのは半ば当然といえる。
―自分は間違っていたのではないか。
樊瑞は何度も自分に問うてみた。未だその答えは出ていない。

「私は生まれながらに忍として育てられたのでな。もの心ついた時にはすでに血の味を知っていたぞ。」
それを聞き、樊瑞の眉がひそめられたのを見るとレッドは再び苦笑した。
「いやいや同情は無用。それがこの身に背負った道だ。そう育ててくれた事に恩すら感じている。その幼子をお主がどうしようと勝手だが――これ以上まぼろしを見せてなんになる。
苦しめたくないと思うなら、いっそ抱いてしまえばよいではないか。快楽に身を任せるのも悪くはないぞ?」

それに―とレッドは樊瑞の耳元で囁いた。

「馬鹿な!」
思いがけず露出する己の生の感情。
不快と困惑が樊瑞を支配する。
「報告は以上だ。では失礼する。」
そんな樊瑞を他所に、レッドはそう告げると姿を消した。
口元には笑みを湛えて。
樊瑞の耳に残るレッドの言。

―仙道だった主なら閨での所作は誰よりも心得ていよう。



部屋に響く時を告げる鐘の音。
早くも7日目の日が暮れる。
外では太陽は恐ろしく赤く、そして静かに燃えている。
沈み行く太陽を見やり、樊瑞はまた大きく息を吐く。
まもなく部屋には闇が訪れようとしていた。


白い煙がたなびいている。
火薬と血、そして人の焼ける匂い。
さまざまな匂いが混じり合うここは戦場だった。
砂の上に男が一人横たわっている。
白いクフィーヤを朱に染めたその姿は、まるで砂漠に咲いた一輪の花のよう。



降下する救援部隊。
それが男の目には風に吹かれる綿毛のように白く美しく映る。
― 春眠暁を覚えず だっけ・・・か。
それは男の会議中の欠伸に対して、樊瑞がかけた言葉だった。
それがふと脳裏をよぎる。
― 確かにその通りだ。眠くて、とても目を開けていられない。
砂漠は穏やかな春の訪れとは無縁だが、男にとってそれはどうでもいい事だった。

「今日はとてもいい日だ。よく晴れて、砂嵐もない。さぞかし空からは下がよく見えるだろうねぇ。」
― そう思わないか、アルベルト。
男はうわ言のように宙に言葉を投げた。

この男を盟友と呼んだ男は今この場にはいない。
いないことが男にとっては幸いであった。
上手く逃がした。
そしてその結果として男はここに横たわっている。
― 神行太保君、君に彼はやらないよ。
男はにやりと笑い―実際には表情を変えることなどすでに出来はしなかったが―
それから満足げに息を吐いた。



アルベルトの赤い瞳が好きだった。
鋭く光り、目の奥にまで焼きつくその赤。
抉り出しいっそ自分だけのものにしてしまおうかと、何度思ったことだろう。
だからその片方が失われたのはとても許せることではなく、奪った男への憎悪に燃えた。
仕返しに彼の一番大切なものを汚してやった。
壊してもよかったが、それでは一瞬でつまらない。
男がアルベルトに与えた屈辱を思うと、腹の虫が収まらなかった。

苦しめばいい。
いとおしい者が負った心と体の傷。
男は、なぜ傷を負ったのが自分ではないのかと嘆き、自分の無力さを嫌というほど思い知る。
そして駆られるだろう、深い怒りと憎しみに。
しかしその時、それを向けるべき相手はもうどこにもいないのだ。
握り締めた拳はむなしく空を切る。
それを思うと可笑しくてたまらなかった。
― いい気味だ。



奪われた瞳は横たわる男の手の中にあった。
赤い瞳は濁り、もうそこに輝きを見出す事はできない。
とんだお笑い種だ。
狼に食われた赤い瞳を取りかえそうとして自ら狼の牙に落ちるなど。
だが捨て置けはしなかった。
そして瞳の主は逃げおおせた。それでこの男は満足だった。

濁った瞳に映る自らの顔。
あの輝きを放つのは持ち主の中でないと駄目らしい。
抉らないで正解だ。
そんな事を思ううち、もう一つの赤い瞳を思い出した。

― サニーちゃん、泣くかなぁ・・・
夢を見ている彼女を起こしてしまうのは忍びない。
それがいい夢ならなおの事。
だが、もう誰にも止める事など出来はしない。
彼女には目覚めの時がやって来た。
そして自分には眠りの時が。

「アルベルト、眠ったら夢に見るのは君がいいなぁ。」
そう、いつもの調子でおどけてみた。

くだらん

それは彼の常套句。
聞こえるはずのない返事、それを聞いた気がした。
まぼろしだろうが男は構わなかった。

― まぼろしに始まりまぼろしに終わるのも悪くはない。

白い煙に包まれて、男は静かに眠りついた。
男がその眠りから覚める事は二度となかった。


彼は夢へと還っていった。



「サニーちゃんはいい目を持っているね。アルベルトにそっくりだ。これからはその目で物事をしっかり見るんだよ。」
― 君は大きくなったらきっと素敵なレディになるだろうな。
そう言い笑ったセルバンテス。
その訃報がサニーの耳に届いたのはつい先ほどの事で、
共に任務についていたアルベルトは右目を失う重傷との事だった。
― セルバンテスのおじ様は自分の死を悟ってらっしゃった。
サニーにはそう思えてならなかった。



小さな頃から知っていた父の盟友。
サニーには、いつも父の隣にいるセルバンテスが羨ましく思えた。
初めて心に抱いたのは軽い嫉妬。
そして次に抱いたのは恐怖であった。
彼の背後にある影のようなもの。それをサニーは常に感じていた。
そのゴーグルの奥から覗く目が怖いと、サニーが樊瑞のマントに逃げ込んで身を隠す度、
セルバンテスは可笑しそうに笑っていた。
しかし影はそこに佇むだけで、自分には何もしないとわかってから、
サニーは次第にセルバンテスに近づくようになった。
彼はサニーの赤い瞳を好きだと言って、彼女の前ではいつも優しく紳士に振舞った。
自分を小さなレディとして扱ってくれるこのセルバンテスを、サニーは今では愛していた。
父と母と、「大好きなおじ様」の次に。

最後に会ったのは任務の前々夜。
樊瑞の居城をアルベルトとセルバンテスが訪ね、まもなく酒盛りが始まった。
サニーは三人に挨拶をし、ベッドに向おうとしたところを彼に引き止められて、そして言われたのだった。
これからは自分の目で物事をしっかり見よと。



涙は後から後から出た。
とても止まりそうにはない。
いっそこれが夢ならば―
サニーはそう思ったが、樊瑞に強く抱きしめられた体は熱く、痛い。
これは紛れもない現実だった。

夢の終わり。

現実の始まり。

幸せな日々は行ってしまった。
そして二度と帰る事はない。

狼に食べられてしまった魔法使い。
かけられた魔法から目覚めた眠り姫。
そこで待っていたのは別れと深い悲しみだった。

小さな赤い瞳が雨を降らす中、空はこれ以上ないほど晴れ渡り、そこにたなびく一筋の白い雲。
それはまるで白い布を纏った魔法使い。



おとぎ話をしてあげようか?
それとも魔法をかけようか?



しかし、そのおどけた声を聞く事はもう二度と出来はしなかった。
  • ABOUT
うろほらぞ
Copyright © うろほろぞ All Rights Reserved.*Powered by NinjaBlog
Graphics By R-C free web graphics*material by 工房たま素材館*Template by Kaie
忍者ブログ [PR]